神道国際学会会報:神道フォーラム掲載
神道国際学会理事の「ホットな近況から」
ジョン・ブリーン理事    マーク・テーウェン理事

●ジョン・ブリーン理事

幕末維新の宗教政策や靖国に焦点
政治史的なアプローチと多様な方法論から迫る
「力学のダイナミックさに注目しないと極めて面白くない」

 「僕の場合、曲がりくねった道を通って、やっと神道にたどり着いた感じで」
日本研究の最初は江戸末期の「隠れキリシタン」が課題だった。文化人類学的な観点から進めようとしたが、やがて関心が、キリシタン弾圧の背景にある政治問題に移った。
 時は幕府崩壊、維新政府成立の時期。「幕府のキリシタン対策を理解するには、宗教政策全般を念頭に置かないと意味をなさないと考えて。さらに、維新当初の廃仏毀釈とか祭政一致とかをキチッと押さえないと、キリシタン弾圧の政治的、歴史的意味合いが理解できないという結論に達したのです」
 キリスト教や仏教に対する政策とともに、維新政府の宗教対策には神社も出てくる。ここに至って神道にも研究の目を向けることになった。
 最近の関心は幕末期の皇室について。当時の政治状況の中で、皇室がいかに近代的な制度に変身したか、について研究をまとめている。
 「もう一つの関心は、戦後の神道です。一つはやはり靖國問題で、もう一つは組織としての神道、神社本庁の問題、つまりいわゆる本庁離脱問題≠ナすね。戦後の神道を理解するのにこの二つの問題は避けて通れないと思う」
 「結局、私の場合は、宗教史的な観点からというよりは、どちらかといえば政治史的な観点からのアプローチです。宗教学でも、方法論を明確にして問題に接近しないと非常に面白くない。社会史的、政治史的、文化人類学的……いろんな方法論でもって問題に焦点を当てていくのが、近年の研究方法なんです」
 いずれのテーマにおいても、組織論的な成立と発展、解体といったダイナミックな動きに注目する。「様々な理由や原因で力学が働くわけですから、非常に面白いですよ。『神道は神話時代からずっと続く日本古来の……』という立場は極めて面白くないな」
    ◇  ◇  ◇
 イギリス・ケンブリッジ大学で「天皇、国家と宗教」をテーマとした論文で博士号取得。現在はロンドン大学の東洋アフリカ研究学院日本研究センター所長。「儀礼」「神道」「靖國」等を軸とした近現代の日本に関する論文多数。
 自著のほか、テーウェン理事との共同作業による編集・翻訳本が二冊ある。また両理事は新たに、神道社会史の入門書的なものを執筆中。
 神道国際学会との関わりは、平成6年11月にロンドン大学で国際シンポジウム「神道と日本文化」を開催する際、梅田善美理事長にくどかれ、現地担当者になって以来のこと。


●マーク・テーウェン理事

思想史から神道の歴史研究へ
中世神道を中心に変遷の実態を解明
「変形しながら “宗教” としてなぜか続いている。不思議です」

 都合二回、二年間の皇學館大学への留学を経て、イギリス・ウェールズ国立大学の日本学センター助教授に、そして現在はノルウェー・オスロ王立大学の日本学科教授である。
 オランダ生まれ。大学は同国のライデン大学日本学科。もともとは思想史、国学の研究から入った。修士論文は本居宣長。博士論文も当初は宣長と伊勢神宮がテーマだった。
その研究前半の過程で、当時、皇學館大学で教鞭をとっていた真弓常忠・住吉大社宮司(当時は京都の八坂神社宮司)と縁ができ、同大学へ勉強に来いと誘ってもらったのである。
 「皇學館で学ぶうち、多少は成り行きもあって視点を少し変えようと――。最初は思想史だったのが、神道に出合ってみれば、どんどん興味が高まって。魅了されて、なかなか離れられない」と笑いながら、「神社奉仕もやりましたよ」
 博士論文は結局、「伊勢神道」を主体とする内容となった。伊勢神道史にも曲折がある。「江戸時代だと、出口延佳が後期の度会神道を再興する。しかし御師、外宮、内宮の関係も複雑で、訴訟があったり、論駁されて再び衰えたり、押し返して立場を死守したり……。どういう風にして守ったかとかを見る必要もある」。中世から近世を含め、神宮文庫の資料をよみあさり、歴史の実態を解明した。
 その後は中世への論及が多い。本地垂迹、神道と密教の関係などなど。「中世神道――なぜそういうことが起こったのか。どういう形で現れたのか」。詳細な分析とともに、歴史と思想の絡み合う総合的な視点からのアプローチも重視する。
 学者の目で見た神道には様々な研究課題がまだまだ残っている。
「土着宗教が形を変えながらも一つの確立した宗教として存続している。普通は、儒教や普遍宗教としての仏教が入ってきたら、土地の神々はせいぜい鎮守様≠ョらいになって、ひとまずそれで終わり。ところが、変型しながら自国の文化に育ち、はたまた戦後も宗教法人として残っている。アジア的観点で見れば本当に不思議、謎なんですね」
そういう観点からも、今後、「神社」がどういう姿をとっていくのか、近未来像にも関心を寄せる。新たな機能を持つことがあるのか、新しい「神社」が作られることがあるのか――。神社としての歴史、神道としての歴史を外から観察しての問題設定である。
   ◇  ◇  ◇
「神道に限らず、中世はまた秘伝の文化ができた時代」――ということで、秘伝口伝に関する論文集を間もなく刊行する。各国の研究者に呼びかけ、世界各地の秘伝文化を取り上げ、その歴史を解き明かす。
オスロ大学図書館には、神道国際学会から寄贈された「神道大系」がある。北欧唯一の所蔵として、日本文化研究者たちに広く活用されることが期待される。

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