神道国際学会会報:神道フォーラム掲載

From Abroad - 外国人研究者紹介
アンドリィ・ナコルチェフスキー博士


慶應義塾大学文学部助教授

国学の研究――様々な側面に焦点をあててこそ思想の全体像が。

神道、さらに国学の研究へと進み、日本宗教の思想・文化の本質に迫ろうとしている。
ただ、当の日本国内における国学研究に、霊学や神秘主義への言及が少ないことに戸惑いもあるようだ。「研究に片寄りがあるように思うのです。霊学や神秘思想というのは日本の国学研究で無視されている。また、国学の人物研究でもその一側面にしか焦点が当てられていなかったり……。思想として存在していた事実は事実として研究するのが学者の役目ではないでしょうか」と指摘する。「無視されているのには何らかの理由があるのでしょうが、私には今、そういうものにこそ興味がある」。西洋では、研究者は神秘主義だろうと思想史として研究するし、学問として認められているという。
「国学でも、人物や時代が、何を目指していたのか。どういう影響を受け、次代にどういう影響を与えたのか。いろんな側面を見ないと全体像が分からないと思います」。本居宣長の研究は多いが、神秘的なものに興味のあった宣長を論じたものは少ない。霊学の色の濃い平田篤胤の研究は決して多いとはいえない。
「今、山口志道に取り組んでいますが、最近までその研究書がなかった。一部の復刻が出版されたが、志道の言霊への論考を祝詞作成の参考にするためとか、結局、実践者向き。依然、学問的研究は少ないのです」

ウクライナにもある神道に似た自然観

もともと宗教哲学と日本の文献に興味があり、大学で日本思想や日本仏教の研究に入った。博士論文は一遍上人の研究。「だが、一遍上人の思想を見ていくと神道的な要素がある。そこを勉強しなきゃいけないと。そこから神道研究が中心になりました」
 近年、ロシアで出した『シントウ』も好評で、版を重ねている。気づかずとも神道的であるなど、日本の文化と思想の基盤、世界観として存在する神道の価値を明らかにした。「一般向け、というより、複雑なことでも普通の言葉で説明できる、理解してもらえるというのが私の基本的な態度。神道を勉強する人が読んで分かるように書きました」
 「じつは、神道的な価値観はユニークではない」とも。「たとえば私の祖国、ウクライナは今、日本の幕末明治維新のような状況と考えていい。国民国家、宗教イデオロギーが求められていて、キリスト教以前の自然観や魂観を基にした、もともとあった宗教が復活しようとしている」という。その社会状況や、宗教事情、宗教の内容を研究した本の刊行も予定されている。


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