神道国際学会会報:神道フォーラム掲載
神社界あれこれ

「長老」に轡田氏
二十三日に本庁定例表彰「『お役目』に生きることを誇りにしたい」    
――体験と感謝を糧に


 神社界に功績のあった関係者を称える神社本庁・平成18年定例表彰式が5月23日、都内で開かれる。うち、新潟県護国神社の轡田勝彌宮司には斯界最高の栄誉である「長老」称号が授与される。
 轡田氏は大正15年、新潟・新津、堀出神社の社家に生まれた。「20代目の社家でありながら神戸高等商船学校(後の神戸商船大学)に入り、親父を困らせました。『お前はバカ倅だ』と」
 時は大戦末期。乗船実習に出たところで機雷二発に当たり、壊滅した船底と甲板の中間にいて奇跡的に助かった。ボートに飛び移り、海に投げ出された幾人かを引っ張りあげた。
 「神様の導きと、仲間を助け上げることができたことと、そして、やられた仲間への鎮魂と――。やはりこれが私の人生に大きく作用しているのです。『神様に生き残された人生だ。わが社会、そして神社のために、ご恩返しをしなければ』と」
 終戦で、復員輸送と民間人帰国のため鹿児島〜上海間を7回往復。そして卒業証書を手に帰郷した。間もなく父が亡くなった。「後におふくろに聞いた話ですが、親父は『何事も最後までやり遂げてみるものだ』とボソッと言ったそうです」
 神社に奉仕しながら役場勤めに入ったが、「神社や神道のことをもう少し勉強しなさい」という母親が國學院大学神道専攻科に入れてくれた。伯母の夫が祭式学の大家・金光慥爾で、そこに下宿して國學院に通った。「神社奉仕の性根を植えつけられました」
 その後の神社界、新潟県政界での活躍、教育・福祉分野での尽力は言を待たない。地元教育委員会や社会福祉協議会での要職、新潟県議などを経て、同県議会議長と自民党同県連幹事長を務めた。神社界では神社本庁評議員、新潟県神社庁長、本庁評議員会議長などを歴任した。
 現在では各界の第一線を退いたものの、堀出神社、新潟および佐渡の両護国神社の宮司を、また地元に誘致した特別養護老人ホーム「こぐち苑」の理事長を兼務する。「日本でも有数の充実した特養ですよ」と胸を張る。
 「『福祉』『教育』『政治』は私の人生の柱。人間の誇り――ということをいうなら、『お役目』に生きることにこそ誇りを持たねばいけません」。
 若き日の体験と両親はじめ先祖への感謝を思いながら、責任ある生涯現役を貫く覚悟でいる。

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ハングル語で神社案内を刊行
神戸大・朴助教授に翻訳依頼 埼玉県・高麗神社


 埼玉県日高市に鎮座する高麗神社(こまじんじゃ)の案内冊子(B5判・十五頁)のハングル語版がこのほど完成した。訳者は神戸大学助教授の朴鍾祐氏。
 同社の祭神は高句麗の王族で渡来人の高麗王若光。朝廷内での信望篤く、「従五位下高麗若光に王の姓を賜う」(続日本紀)とある。霊亀2年(716)、武蔵国に新設された高麗郡に首長として赴任。武蔵の近隣から移り住んだ高句麗系の人々と開拓にあたった。
 若光没後、郡民が遺徳を偲んで御霊を祀ったのが高麗神社。同郡は明治まで存続し、現在でも「高麗(こま)」は地名や鉄道駅名にも残る。韓国関係の官財界・学界要人が訪れることも少なくない。
 冊子はオールカラー。翻訳を懇請された朴氏が「コンパクトながら様々な事項を要約した濃密なパンフレット」と言うように、神社の由来から境内案内、関係人物、建築、高麗郷の民俗に至るまで適切な解説を施す。写真や絵、地図も多く盛り込み親しみやすい。
 ハングル訳に当たっては幾つかの苦心があったようだ。「まずは人名・地名そのものの問題。単純なようでじつは固有名詞には、名付けた人が込めた意味合いや言葉のアヤがあって、それをどう大事にしつつ、どう処理するかに苦労しました」(朴氏)。
 「高麗」といっても後に朝鮮半島を統一した高麗(こうらい)ではなく、時代を遡った「高句麗」のことである。高麗王若光の「王」も字だけ見ると誤解を生ずる。「"名は体をあらわす"で、日本でそう呼ばれた意義も重視し、小さな説明でも意図に近いところを疎かにせずに訳を試みたつもりです」(同)
 ほかにも両国語で異なる用語の定義や、詩歌碑にある「日本語や漢字の言葉としてのふくらみ、におい」(同)をいかに表現するかなど、着手すると難問が続出。訳が可能でも最終的に漢字を残す選択をした部分もあったという。
 「古典や歌のさりげない、秀逸な部分ほど訳しにくい」と朴氏。「でも、日韓両国の関係者が見てくれるものと思うと、なかなかやり甲斐のある仕事だった。歴史的な様々な出来事を乗り越えて、このような神社が明確に存在するというのは興味深い」と感想を語っている。
 なおこの冊子に関しては、製作を担当した近代出版社(東京)から翻訳人選の相談を受けた本会が朴氏を推薦した経緯がある。

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DVD『日本は森の國』を刊行
NPO法人社叢学会など森に生きる日本文化の意義伝える
各地の祭りと芸能を映像で


 「教えて欲しい、私たちの心のルーツを……」
  ハイビジョン映像作品シリーズ「神々・自然、そして生命」の第一作、『日本は森の國』がこのほど刊行された。昨年、愛知県で開かれた「愛・地球博」にNPO法人社叢学会が出展したもの。
  製作・著作は同学会ほか。DVD製作・発行はKUNIディレクターオフィスほか。制作協力は神宮司庁と神社本庁。総監修は京大名誉教授で秩父神社宮司の薗田稔氏(同学会副理事長、本会会長)と、國學院大学助教授の茂木栄氏(本会理事)。
 全国各地の祭りや、伝承の祭祀、さらには神事芸能などの映像を通して、森に生きる日本文化の意義と価値を訴える。そして、神の社としての鎮守の森「社叢」の持つ意味を広く伝えたいとしている。
 DVD二枚セットで、5話(93分)構成。第1話「籠もりくの大和」、第2話「森のまつり」、第3話「神の木 神の森」、第4話「森と現代文明」、第5話「森をつくる話」。解説冊子「日本は森の國〜鎮守の森その現在と意義を問う」付き。映像の中のイメージソング「万葉POPS『聞かせてよ 森のこころ』」は作曲が本田裕子さん、ソプラノが薗田真木子さん。
 協賛金として8000円。注文・問い合わせは、KUNIディレクターオフィス(代表・松永国彦氏)。電話・FAX=054(209)2530。


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