神道国際学会会報:神道フォーラム掲載
櫻井勝之進氏の功績を偲ぶ

伊勢で本葬儀 多数が参会
皇學館・多賀大社・滋賀県神社庁の合同で
斯界のトップらが別れの言葉


    昨年末に96歳で帰幽した本会顧問でもある櫻井勝之進氏の本葬が1月26日、三重県伊勢市の県営サンアリーナで、学校法人皇學館・多賀大社・滋賀県神社庁の合同葬として執り行なわれた。神社界はじめ各界の要職者らが多数参会し、斯界と神道学の発展に多大な足跡を残した故人の御霊が安らかにと祈った。
    葬儀は中野幸彦・多賀大社宮司(滋賀県神社庁長)を斎主に同大社神職らの奉仕で執行され、供饌や祭詞奏上などとともに会葬者全員が玉串を捧げ拝礼した。
    告別の辞で葬儀委員長の上杉千郷・学校法人皇學館理事長は故人の功績として、1)人生一貫して奉仕した神社界で重責を完遂したこと、2)皇學館の再興と運営に尽力したこと、3)学者として生涯にわたって学究の姿勢を持ち続けたこと――を挙げ、「先生の示された日日学問の熱意を私たちの人生の指針とすることこそ、先生に対する恩返しであると思う」と御霊に語りかけた。
    弔辞で久邇邦昭・神社本庁統理は、故人が皇學館大學の発展と神社本庁の諸事業に残した功績に対して敬意を表し、「常に自分に振り返って率先垂範してこられた精神は必ずや後世に引き継がれ、長く語り継がれていくものと思う」と称えた。
    同じく北白川道久・神宮大宮司は、とくに神宮に関連して「“神宮学”を興隆せしめた功績を忘れることはできない。(遷宮基本問題検討委員会などで)常に私どもの進むべき方向について多大なる示唆をいただいた」と語り、式年遷宮はじめ神宮の研究に対する故人の識見に敬意を示した。
    このほか奥野文雄・多賀大社責任役員は同大社の氏子・崇敬者と故人の在りし日の交流に思いを馳せ、岳尋幸・滋賀県神社庁副庁長は同県神社庁長時代の故人の指導力と業績を偲び、それぞれ弔意を表した。
    喪主の櫻井治男氏(皇學館大學教授)は挨拶で、「いずれの日も本人にとり、喜びの多い出会いの場であり、お与えいただいた活動の機会だった」と各位に謝意を表し、また故人の現世での心情については「淡海のごとく広く豊かな恵みのなかに生かされてきたかたじけなさに改めて自己を見つめ直し、時代を担う豊かさとともに在りたいとの思いの発露」があったと推し量った。

神道学の大家
斯界の要職も歴任


    故・櫻井勝之進氏は明治41年、島根県生まれ。神宮皇學館に学び、愛知県・津島神社、同・真清田神社、滋賀県・多賀大社での奉職を経て昭和20年、熊本県・菊池神社の宮司に就任した。同32年に神宮禰宜となり、神宮司庁教学研究室長などを務めた。その後、同50年には多賀大社権宮司、同54年から同宮司、平成2年に同名誉宮司となった。この間、式年遷宮に関わる委員会委員などを歴任するなど、生涯、神宮に関わった。
    また神社本庁講師、同評議員を務め、昭和58年に滋賀県神社庁長。神社本庁副総長を経て、同62年から平成元年まで総長を務めた。平成2年には本庁「長老」称号が授与された。
    皇學館大學では評議員、非常勤講師、常任理事、副理事長などを経て平成2年から同10年まで理事長を務め、退任後は常任顧問となった。またこの間、芦屋大学教授なども歴任した。
    このほか各種団体で重責を担い、超宗派の協力団体では宗教対話と世界平和のために活動した。国際感覚もゆたかで、平成6年には神道国際学会の設立に賛同し顧問に就任、帰幽まで指導にあたった。
    著書は『伊勢の大神の宮』、神道国際学会編『次代に伝える神道』、最近刊『神道を学びなおす』など多数。平成七年には勲三等瑞宝章が授与された。

いまは亡き櫻井勝之進先生を偲ぶ
神道国際学会会長 薗田 稔

    「老いてますます盛ん」また「老いてなお壮者をしのぐ」などの表現は、まさしく櫻井先生のことかと平素馨咳に接する度ごとに感嘆して実感するほどお元気であったのに、やはり現世の習いとは申せ、今さらその喪失感は深いものがあります。
    旧臘25日、京都に向かう車中で、先生逝くの一報を受けた途端に脳裏をよぎった想いは、いかにも迂闊であったという自責の念にともなう、そうした一種の深い喪失感でした。昨年の夏以来、体調を崩されて入退院を重ねられていることは仄聞していながら、齢九十寿を超えられた近年でも伊勢の神宮や大学の会合でお会いするときには相変わらずかくしゃくとしたお姿で、目も耳もお達者どころかスピーチに座談に当意即妙のユーモアと学識をさりげなく交えてお話される元気な様子ばかりが印象に残ったせいか、まさかの思いに任せて最後のお見舞いにも参上しなかったことが、今では悔やまれてなりません。
    われらが神道国際学会も、先生には11年前の設立当初から力強いご理解とご支援を賜わり、顧問として最後まで見守っていただいたことは会員各位もよくご存知のことと思います。
    現に、平成7年夏に東京の国連大学で本学会が開催したシンポジウムでは「共同体の形成における神道の役割」という講演をしていただき、その講演録を中心に同10年6月本学会の「神道ブックレット」シリーズ(弘文堂)第2冊『時代に伝える神道』として発行させていただきました。
    また平成15年3月に伊勢の神宮会館で開催した第7回神道セミナー「皇室と伊勢神宮」でも、「今、なぜ皇室と伊勢神宮を考えるのか」という基調講演を賜り、その内容も同年12月に本学会編集の『皇室と伊勢神宮』(たちばな出版)に収録しております。
    しかも昨年8月には神社新報ブックス 『神道を学びなおす』を公刊され、これが最後の遺著となりましたが、まさに享年九十六歳の最晩年にいたるまで求道の気概を燃やしておられたことに敬服するほかありません。
    このように、先生は天寿の恵みを尽くして最後まで皇室と神宮のために献身され、次代を担うべき我々に民族の伝統と神道の行く末を託して逝かれたのです。先生のご遺徳を奉じ、ご冥福を祈りつつ、あらためて本学会の責務を思う次第であります。
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