神道国際学会会報:神道フォーラム掲載
神道国際学会理事の「ホットな近況から」
玉川 千里  監事

我々の感性の源流を探ってみよう
定年後に神道勉学へ――カルチャー講師で神道普及に一役
        「日本人の行動原理って古事記の昔から変わらない」


 還暦を過ぎて皇學館大学神道学専攻科に入学、神職資格を取得した。
 その後、『ビジネスマンも読む古事記』を世に出し、その縁もあってカルチャーセンターの古事記講座を受け持ったり、文化講座の講演に立ったりしている。企業の第一線を退いた世代のコミュニティ団体「NPO法人・新現役ネット」の勉強会でも講師を務め、古事記をもっと知ってもらうために一役買っている。
 東大農学部で食糧化学を学び、大手食品会社に入社。研究部門や工場を歩き、系列会社の社長や本社役員を務めた。定年退職までの経歴から見えるのは経済紙などでの決まり文句生産畑出身の取締役≠セ。
 化学研究とビジネスの生活から、神道を勉学する人生へ。この転身の前後はどう繋がっているのか。
 「古事記をやったのは、普通の日本人の日本的な感性と行動原理――その源流を探ってみようと思ったから」と理由をまとめ上げたあと、「まあ、道楽みたいなもの」と照れ隠しのように落としてみせる。
 だが、道楽だろうと趣味だろうと、何らかの原体験のようなものがあったはず――というわけで、ビジネスマン時代に次第に膨らんでいった神道への関心をこう語ってくれた。
     ◇ ◇
 入社当初は研究に没頭すればよかったのが、勤続が長くなるにつれ「○○長」としての仕事が多くなる。同時にサラリーマンの宿命で全国各地への転勤も続いた。
 「もともと、合理化とか数値管理で部下の尻を叩くのが苦手でね。『言うのもイヤだし、言われるほうもイヤだろう』と。転勤すると土地も人も仕事も新しくなる。口喧しく言わなくても馴染んでくれて、やる気になってもらうにはどうすればいいだろう――」
 偶然発見したのが「土地の氏神様を大事にする人と思われたほうが仕事の話も聞いてくれる」ということだった。それは地元の心を大事にする態度が大切ということでもあるようだ。
 「そのとき『あっ、日本の神様は仕事の役に立つ』と思ったよ」と冗談めかすが、以来、工場の安全祈願は勿論、新製品が登場したとき、数値目標を達成したときなど、部下らと氏神様や工場内の神様にお参りに出かけることになる。「これこそ政祭一致≠カゃないか。もっともお参りの後は皆で一杯引っかけに行くのだけど」
 しかし疑問も湧いた。皆、それほど神様に対して強烈に信心深いというわけでもない。「でも潜在的に神様や神社が嫌いではないという気持ちもある。その辺りの心の源流を、いつか道楽でもいいから勉強してみよう」と思い始めていた。
    ◇ ◇
 我々が意識せず、当たり前にやっている日々の行動パターンや原理。それらも、神道を学び古事記を読むと腑に落ち納得することが多いという。「なんだ、日本人って、古事記の昔から全然変わってないじゃないか」
 「険悪になりかけても『ああ俺が悪かった。謝るよ』『いや、そういえば俺も悪かった』で収まる。『ジッとしていれば台風も去るよ』『そのうち春が来るよ』。
論理的に、深刻に思索したりしない」
 「八百万の神がおいでになるのだから、日本人は明るく前向き。そういうギシギシしていない精神を世界に知ってもらうのは文化の発信≠ニしていいことだと思う」
 今、仲間たち十人と「日英対照神社関係用語集」作りに取り組んでいる。

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