神道国際学会会報:神道フォーラム掲載
話題のこの人 : 新渡戸涼恵さん

   阪神淡路大震災から10年目の今年1月17日、淡路島・伊弉諾神宮で、この日のために作った『天地(あめつち)への祈り』を奉納した。
   兵庫県内の若手神職らによる復興十年記念式典。鎮魂と平和を願い、同時に「"国生みの島"で、私も原点に帰ろう」と、歌に祈りを込めた。

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   自身も実家、神戸の神社で被災した一人。当時は高校二年生。惨禍を目の当たりにし、友人の幾人かを喪った。
 「高校生の自分、今の自分――。あの頃、こんな形で十年目を迎えるとは夢にも思わなかった」

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   「天地(あめつち)への祈り――本当に私が歌っているのだろうか」
意識と無意識の間を浮遊しながら、そんな想念がやってきた。
 だが歌い終わったとき、不思議に実感できたという。「十年が経って、今ここに生きている自分。小さな人間を生かしている自然―天地(あめつち)への感謝の気持ちで一杯になりました」

根っこを育てることも大切にしたい
 
   「自分にできることを精一杯やるしかない」。それが犠牲者の御魂への誠実さでもあると、一層、力強く思えるようになった。歌手として、神様の元で奉仕するなかとりもち≠フ神主として。
   「十年」といえども、心のすべてを清算できたかと言えば、確信はない。「いろいろ考え始めるとバランスを取るのが難しくって。理性が納得しても、感情がぶるぶる震えることもありますよ」
   それでも今は、「空ばっかり見上げていたこともあるけれど、大地を感じて根っこを育てることも大事なんですよね」と、大らかに笑える自分に出会っている。

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   満開の鉢植えを見ていると、幸せだという。休みの日は一日中、土いじりに専念することもしばしばとか。
「土の中に手を入れていると、温かくって気持ちいい。色んな虫がやって来たり、興味津々ですよ」

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   平成十四年、アルバム『うましあしかび』で本格デビュー。以来歌う神主≠ニして神社界のみならず多方面で活躍中。
   ここにきて新たな展開にも挑んでいる。海外アーティストとのコラボレーション企画「多様性の融合」に参加したり、二歳まで過ごしたブラジルでコンサートを開く計画を練ったり。さらなる飛躍を目指す唄い手・涼恵≠ノ期待が集まっている。




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