神道国際学会会報:神道フォーラム掲載
神道展示館訪問 : 春日大社宝物殿

「物」でなく「信仰の心」を見る
すべては奉納品ゆえに今に残った


   青丹よし奈良の都をのぞむ春日大社は平城宮の置かれていた頃の創建時から今に至るまで、和平と万物共生を願う多くの人々の篤い尊崇を受け続けてきた。
   境内の宝物殿に収蔵される宝物も、じつはすべて、人々が崇敬の念を込めて春日の神々に奉納した捧げものなのである。
   「『物を見せるのではない、信仰の心を見ていただくのだ』とは常々、宮司(葉室頼昭氏)の申しているところです」と主任学芸員の松村和歌子さんは、宝物殿の存在理念を説明してくれた。
   昭和10年に旧館がオープン。同48年、奈良県内で第一号の総合博物館として再出発した。年4回ほどの企画展示「名宝展」を中心に、奉納品に込めた先人の心に触れることができる。

特別企画「刀と鎧」
精神文化と奉納の心


 12月28日までの特別展「春日大社の刀と鎧」も企画の第一義は「その奉納の心」である。「捧げものとしての意味合いと、日本の精神文化を表す手段として作られた武器・武具の価値を見ていただきたいと思います」(松村さん)。
   第一期(9月28日まで)では、藤原氏ら貴族が奉納した国宝・重文級の優美な武具を中心に、春日権現験記ほか屏風や文書類を公開している。
「金地螺鈿毛抜形太刀(きんじらでんけぬきがたたち)」(国宝・平安時代)――細工された猫の黒目には琥珀を、白目には貝を、目尻には瑠璃を嵌めるなど細密で、摂関家奉納に相応しい。
「紫檀地螺鈿飾劔(したんじらでんかざりたち)」(国宝・平安時代)――藤原摂関家伝来といい、彫金にも凝っていて美の追求に 意を尽くした平安貴族の心根を彷彿とさせる。
「赤糸威大鎧(あかいとおどしおおよろい)」(国宝・鎌倉時代)――伝・源義経所有、重量三十五sの大鎧で、茜染めと言われ、染色と細工にこだわった日本人の美的感性が見て取れる。
   春日大社の太刀類には両刃・直刀から湾刀に変わっていく過渡期のもの、「正倉院」時代から平安・鎌倉時代への特色の変遷を示すもの、さらには砥ぎ跡のないもの等々、他所に残っていない貴重なものが収められている。
松村さんは「それというのも、やはり神様に奉納したものだから残ったのでしょうし、神社奉納品の特徴がうかがえるところでもありますね」とあらためて強調した。

春日の「ダ太鼓」

  ところで、毎年十二月の若宮おん祭に使われる「ダ太鼓」は必見だ。昭和五十一年に新・旧交替したその二台が常設されている。御旅所まで解体して運ぶが、それでも難儀という大物で、それゆえの様々なエピソードもあるらしい――。



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