神道国際学会会報:神道フォーラム掲載
神道国際学会理事の「ホットな近況から」
菅野覚明理事

古典的な領域が消えてゆく ――実用追求のみの学問を嘆く
「人格と教養――文化を育てる 投資マインド≠ェ国家にかけている」


   近著『神道の逆襲』『武士道の逆襲』。この二冊が何よりも印象的だ。
   我々は「神道」とか「武士道」という言葉を日ごろ、いとも簡単に使ってしまう。意味や歴史を考えず(あるいはよく知りもせず)、日本が誇るべきものとして、ごくあっさりと、当たり前のように。
   両『――逆襲』は、神道や武士道という価値観を、日本人の生き様に照らして本質的に捉え直したもの。一般向けながら、思想史的に確かな論証をもって、我々を「なるほど、そうだったのか!」と納得させてくれた。 原稿締め切りに追われる夏
   読み応えのある本は読者にとって嬉しい限り。だが著者のほうは、両書の好評によるものか、最近ますます多くの原稿依頼に追われるはめになっている。
   月刊誌やPR誌への連載に加え、専門の倫理学・思想史学のほうでは言語論に関するもの、江戸時代の死後観念を扱ったものなどの刊行が待っている。この夏は書斎にこもり、締め切りとのにらめっこに終わったようだ。
   「それにしても本は読んだほうがいいですよ」とあらためて単刀直入に言う。
   学問の世界に古典的な領域が激減している現状を嘆く。歴史でも文学でも日の当たるのは近現代。「高校でも古文・漢文をろくに教えないから、大学生も古典をまともに読めやしない」
   思想、文学、宗教……。人間は本来、精神性を追求する性向を持っている。「ところが今の日本人は実用性しか頭にない。実用やテクニックだけだったら動物と違わないじゃないか?」
   「教養」が大事だという。「教養がないと、物事の正しいかどうかの判断もできない。そうするとインチキな宗教とか思想に引っかかったりしてしまうこともある」
   「文化の力が衰える――これは国の責任。無駄遣いはダメという発想がもてはやされるけれど、間違いです。金をチマチマ出したって文化や人材は育たない。国家や政治家に『投資マインド』がないんだ」といきどおる。
   「明治の軍人、大将と呼ばれている人たちを見ればわかる。質が違う。見ただけでオーラが違うでしょ。彼らは和歌や漢詩も作る。小説さえ書いてしまう人もいる。教養の広さが万能の大きな人間を作ったんです」
   明治になって海外から近代技術が流入した。しかし、それを受け取る人間に教養と質があったからこそ、見事に取り込んで国力を高めることができた。「目に見えない人格としての厚みというか、教養が江戸や明治の人にはあったわけですよ」
   教養と人格。「人格には生まれながらの部分もあるけれど、教養は文字通り育てることで高まるもの」と強調する。
   秋になって授業が再開されれば、学部や院の学生に古典的なテキストを読み込ませ、本格的な古典思想の研究に耐えうる後継者を育てていく決意も強くしているところだ。



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