神道国際学会会報:神道フォーラム掲載
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「古事記のものがたり−稗田阿礼が語るゆかいな“日本の神話”」
小林晴明・宮アみどり

   1998年4月、インターネット上の電子マガジンで『古事記』を連載している最中に稗田阿礼が夢に現れてこう言った。「神話を忘れた民族は滅びます。お願いだから『古事記』を子どもたちに伝えていってください!」
   『古事記』上巻は、神話やおとぎ話というだけではなく、仏教や儒教が流入する以前の日本人の暮らしぶりや考え方、文化がいっぱい盛り込まれている。「天の岩戸開き」の話は、暗い時には皆で智恵を出し合ってプラス思考で笑って楽しむ「笑門来福」の説話となっていること、「因幡の白兎」の話は日本古来の薬草療法や汽水域の浄化作用のことまで書かれた先祖の智恵の教えだということも判った。
   それまで単に仕事として毎週『古事記』に取り組んでいたのだが、宮崎みどりがその夢を見たことで「この連載をまとめて本にしなくては…」という思いが強く湧き上がってきた。そして1999年10月、紆余曲折の末に小さな出版社を設立し、「古事記のものがたり」を自分たちの手で出版してから6年――。伊勢神宮会館や熱田神宮会館、その他多くの神社の社務所でも領布して頂き、おかげさまで第七刷り、二万冊の本を世に送り出すことができた。
   最近特に、自分たちのアイデンティティを取り戻すために神社や日本の祭りに興味を持つ若者たちが増えているようだ。日本神話について訊ねられ、何も答えられず恥ずかしい思いをして帰国した海外留学生。『古事記』を読みたかったがどの本も難しく、私たちの「古事記のものがたり」を読んでようやく日本の神様のことがわかったとメールをくれる高校生。「古典としてではなく生きたものがたりとして読めるので面白かった」といって孫のために買ってくださる団塊の世代の人たち。果ては海外在住の日系人の方々から「こんな古事記を待っていました」とはるばるネット注文を頂くようにまでなった。
   次代を担う若い人々が、もう一度自分たちの国を見直すためのきっかけとなる入門篇ツールとしてこの本を手にしてくだされば、夢に出てきた稗田阿礼にも顔向けができるかな?と思っている。

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本書は小林晴明、宮アみどり共著。1500円(税込)。一般書店では販売していない。問い合わせはサン・グリーン出版=06(6692)2222
HPアドレス=http://www5c.biglobe.ne.jp/~izanami/

小林晴明(こばやしせいめい)兵庫県(丹波篠山)生まれ。大阪文学学校にて小説、詩を学ぶ。環境雑誌グローバルマインドの編集部を経て独立。おとぎ話やファンタジーなどの得意ジャンルを生かし難解な『古事記』を、より豊かなものがたり性に富んだストーリーに仕上げることに成功。

宮アみどり(みやざきみどり)岡山県生まれ。大阪文学学校にて小説、詩を学ぶ。いい話の新聞編集部を経てフリーランスライターに。月刊誌「波動」に十四世ダライラマ法王や沖縄久高島の神女の取材記事「神の波動を感じて生きる」を連載し好評を博す。

現在、二人で大阪(阿倍王子神社/安倍晴明神社)、神戸・御影(さろんあま〜と)で「古事記に親しむ会」を開催するかたわら、豪華客船「にっぽん丸」日本一周クルーズ船内で寄港地にちなんだ日本神話の講演をするなど各地で『古事記』を語り継ぐ活動をしている。



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