神道国際学会会報:神道フォーラム掲載
マイ・ブック・レビュー : 「一宮ノオト」 齋藤盛之

   新宿K書店は、わが国を代表する本屋さんである。五階の人文フロアの一角に、宗教書の広いコーナーがあって、仏教書籍の陳列棚は8つ、各棚はヨコ三五ないし40冊のタテ6段だから、暗算すると、合計1500から2000種類の仏教本が居並んでいる。とても壮観で、さすがわが国有数の大書店である。ところが神道または神社の本の陳列棚はない。仏教棚のまわりには、キリスト教、新宗教、世界の宗教、精神世界、神秘学、宗教学、などと銘打った棚が、ずらっと並んでいるのに、神道も、神社も、棚はない。仏教が八棚も幅をきかせているのに、神社は、ない。だから拙著『一宮ノオト』は、あろうことか、民俗信仰の棚に並べられている。
   神道や神社の棚が撤去されたのは、売れる本が少ないからに違いないが、こういう事態を神道や神社関係者は、いったいどう考えているのだろう。売れる本がどんどん出てこないことには、やっぱりまずいのではないか。その点拙著は、読者に興味を持ってもらって、それで売れるように、書いてみたつもりではある。神社には実際、興味ある論点がいっぱいあって、たとえば、延喜式神名帳ひとつとっても、これは宗教行政文書として、世界に他に比肩し得る史料があろうか。
   一宮に絞ってみても、興味は尽きない。一宮は国ごとにひとつある。国司がいなくなってもなぜ国ごとなのか。なぜひとつでないといけないのか。それなのになぜ、多くの国で複数化するのか。複数化してもなぜ、国庁官人政治意思結集の場たり得るのか。そもそもひとつとは、どういう具合にひとつであるのか。一宮は、誰が、いつ、なんの為に、どうやって、決めたのか。ひとはなぜ、そういうことにはこだわらずに、全国一宮巡拝会を組織できたのか。興味は尽きないのである。 〔思文閣出版・本体 2200円(税別)〕

齋藤盛之(さいとう・もりゆき)1930年岡山県生まれ。1953年に東京大学法学部を卒業後、大蔵省に入省。1960年日本貿易振興会サイゴン駐在員。1976年在フランス日本国公使。1980年大蔵大臣官房審議官。1987年日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社に入社。1989年同社社長、95年同社会長。2002年より全国一の宮巡拝会会員。



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