神道国際学会会報:神道フォーラム掲載
伊勢本街道を歩く (10)  つるの渡し
吉井貞俊氏
(西宮文化協会会長)

 この辺に来ると江戸期の道しるべに宮川江何里という表示がなされているのにゆき当るが、その宮川を渡る前に櫛田川という名流に出会う。名流とは何だと思われるかも知れぬが、この川が中部地方の天竜川、近畿の紀ノ川、そして四國の吉野川と結ぶ中央横造線を形づくる重要な河川であり、またこのあたりの渓谷を香肌峡と名付けられていることでもその美しさが想像出来よう。ここでまた一つ着想した。それは現今の人々は伊勢の宇治橋を渡った時、五十鈴川を配する神路山の姿に日本の自然美の極地を感じ、これこそ伊勢だと感銘するのであるが、その昔、この様に村々を歩いて参宮をした人々は、道中に於いてそれに優る数々の風景を見すごして来ているゆえ、五十鈴川を渡る時の感慨は今の人たちのそれと随分違っていたはず、ましてやその昔は橋を渡ってからもマチが続いていたから。
 つるの渡しといっても現在は立派な橋梁が架かり難なく渡ることが出来る。

(絵・文とも吉井貞俊:絵は本誌に掲載)



 本会会員吉井貞俊氏は現在、兵庫県西宮市に在住し、西宮文化協会会長をしているが、もともと伊勢の出身で、猿田彦神社の社家である宇治土公家に出生した方。氏はその因縁をもって、昭和48年の第60回正遷宮の際、大阪から伊勢まで伊勢参宮本街道を踏破し、さらに平成5年の61回の時にも同じ道筋を歩いたと聞いている。
 そして現在、次回の正遷宮を目ざして、3回目の本街道歩きを始めたとのこと。

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