神道国際学会会報:神道フォーラム掲載
From Abroad - 外国人研究者紹介

ヤン・スィンゲドー氏

南山大学名誉教授

「社会変動と宗教」「比較宗教・比較文化」を長く研究
神道を核に社会変化からの影響をつぶさに

   1961年の来日以来、一貫して日本に生活の拠点を置いてきた。当初は兵庫県姫路市に本部のあるカトリック淳心会の教会に着任。最初の日曜日、松原八幡神社の「灘のけんか祭り」を見た。「日本の祭りが好きになった。そして、日本文化を知るには神道を学ぶ必要があると思いました」
    一時期、長崎の教会に籍を置いたが、やがて東京大学に入学し、大学院に進んで、神道や祭祀を中心に宗教学、宗教史学を専攻した。柳川啓一、堀一郎といった宗教学の泰斗に学び、変貌する社会が祭りに及ぼす影響を調査した。「神社へ研究に行けば、やはりお神酒を飲む。お酒を飲み、みんなと大いに議論し、それは楽しかった」と、当時を思い出しながら笑う。薗田稔・京大名誉教授、島薗進・東大教授などは学友である。
    以降、「日本の社会変動と宗教」をテーマとして研究を続けてきた。「社会が変れば、社会における宗教の役割も変化する。宗教の世俗化も起こる。とくに神道や新宗教に焦点を当てました」
    のちに國學院大の学長を務めた故・上田賢治氏と共同で、各国のホテルに配布する日本宗教紹介用の英語版ビデオを制作したこともある。
    上智大、茨城キリスト教大、東京教育大(現・筑波大)などの講師を経て、宗教文化研究所を設置した南山大へ移って長く教授職を務め、非常勤の皇學館大ではキリスト教概論を受け持った。
    南山大では「日本文化概論」を担当した。「当時は外国人が日本人に日本文化を教えるなんて珍しかった。でも僕は、学生と温泉に行って背中を流し合いながら、『自分の背中は自分では見えないものだよ』と、笑いながら言ったものです」
    「社会の変動と宗教」とともに、平行して「比較宗教学」にも関心を向けた。その観点から毎年、宣教師養成学校である大神学校で講義するために、数ヶ月にわたってカメルーンやフィリピンに出向き、日本に住む経験を交えて「文化論」を教えてきた。「『比較文化』ということですね。異文化間コミュニケーション。文化によって思考様式も慣習も違ってくる。これは単に面白いというだけでなく、同時に、グローバライゼーションの時代にあっては、ますます学問的アプローチが必要になるテーマだと思う」
    「二つの帽子を被る」というように、研究活動に加えて、世界の宗教間交流にも力を注ぎ、バチカンの諸宗教間対話評議会の顧問を長く務めた。
    南山大を退官し、カメルーンなどでの講義も終了した現在は、オリエンス宗教研究所(東京)で編集などの仕事に関わるだけの自適の生活。だが、現在の学界を見渡して、「今の研究環境は情報が多すぎて価値判断が難しい。これからの学問は果たしてどうなっていくのか」と憂慮する。社会の抜本的な変動と歴史の大転換に即した自然、政治、思想分野における新たな研究体制を築く必要性をおおいに主張している。

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