神道国際学会会報:神道フォーラム掲載
伊勢本街道を歩く (7)  石割峠
吉井貞俊氏
(西宮文化協会会長)

 今でこそ木製の簡便な道標がそこここに立てられているが、初めてこの石割峠への道を捜し求めてさまよった時は、シンから参ってしまった。なにしろこのあたり、人が歩いていない、畑仕事もしていない。どうしようかと思っていた時、猫が偶然現れた。よし、この猫のあとについて行こう。咄嗟に思い付いた事は、猫なら山の方には逃げない、人家を目がけて走るはずとひらめいたのである。果たして案じた通り人家があったのには全く安堵したことであった。この道はこれから先、山粕峠、鞍取峠、桜峠、牛峠、佐田峠、岩坂峠、かい坂峠と次々越えることになる。これは大層なことながら、考え方によっては例えば東京から日光へ平坦な平野を歩く單調な道でなく、なにか地の襞を一つ一つ縫い越えてゆく楽しみがあろうと思われてくる。それは峠の向こう側に住む人にとっては別世界という感覺が働き、大阪から歩いて来たというと、誰方でもヘェーと驚くのが愉快でもあるわけ。             

(絵・文とも吉井貞俊:絵は本誌に掲載)

 本会会員吉井貞俊氏は現在、兵庫県西宮市に在住し、西宮文化協会会長をしているが、もともと伊勢の出身で、猿田彦神社の社家である宇治土公家に出生した方。氏はその因縁をもって、昭和48年の第60回正遷宮の際、大阪から伊勢まで伊勢参宮本街道を踏破し、さらに平成5年の61回の時にも同じ道筋を歩いたと聞いている。
 そして現在、次回の正遷宮を目ざして、3回目の本街道歩きを始めたとのこと。

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