神道国際学会会報:神道フォーラム掲載

伝統をささえる

大阪・今宮戎神社「十日戎」の縁起物

参詣者へ授与の「笹」を奉納する

狭間富男さん(和歌山県九度山町)


数日で10万本 ━━ 伐り出し・選別から納入まで

    商売繁盛の福徳で知られる大阪の今宮戎神社で正月9日から3日間、斎行される「十日戎」。難波の年始めの風物詩でもあるこの祭礼には例年、100万人を超える参詣者が詰めかける。
 「十日戎」で人々は、受け取った笹竹に福娘さんから授与品の縁起物を付けてもらい、一年の繁栄を祈る。各家庭では笹を年間にわたって飾るが、葉は日が経つにつれ綺麗な黄金色に色づいていく。

   ◇

    笹のふるさと≠ヘ大阪から40キロほど南下した和歌山県九度山町周辺の丘陵地帯だ。同町で柿や桃を作る農業・狭間富男さんが伐採から選別、そして納入までを引き受けている。
    もともと遠戚の家が従事していたものを10年ほど前から狭間家が手伝い、ここ数年は父親の跡を受けた狭間さん一家が差配するようになった。

     ◇

 「10万本をお納めするわけですから、まず竹の絶対量が要る。形が良く、綺麗で、青々とした、縁起物にふさわしい竹を探すのです」と狭間さん。風雨や虫食い、日当たりなど、さまざまな条件に左右されるという。近年はイノシシが出没し、タケノコを食い荒らすのが頭痛の種らしい。
    葉が細かく、賑やかに見える密度の濃い孟宗竹が選ばれる。春に立ち上がった新竹を年末から探し回り、年が明けて「十日戎」の近づいた三、四日間で作業に集中する。「葉がすぐに巻き上がってしまうので、早くから伐っておくわけにはいかないんです」

     ◇

    ノコギリで伐り出し、ナタで枝を掃い、剪定バサミで形を整える。授与される笹は長さ1メートル前後。これが50本ほど取れる竹もあれば、数本しか取れないものもある。葉が巻かないようゴザに包んで保湿する。変色するので温度にも気を使う。
    「十日戎」前日の8日、倉庫に保管された笹の束は4dトラックに載せられ、大阪へ向かう。翌々日に運ばれるものと合わせてトラック3台分になる。出発前後の作業には知り合いらが手伝いに来てくれる。「竹を提供してくれる方々、寒いなか作業をしてくださる方々のご協力には本当に感謝です」

     ◇

    10日の納品トラックには狭間さんも同乗し、お参りする。「年末から段取りで頭が一杯。伐り出しの数日はてんてこ舞い。心配で胃が痛むけど、お宮の夜のライトに照らされた笹の波を見るとすごく綺麗で、やっとホッとするんですよ。竹は生命力が旺盛で、勢いがある。竹にあやかって関西の景気も良くなればいいなぁって思うんです」
 12日、社務所へ報告の挨拶に行き、そこでようやく狭間さんのお正月が来る。
Copyright(C) 2008 SKG all rights reserved
当ウェブサイト内の文章および画像の無断使用・転載を禁止します。