神道国際学会会報:神道フォーラム掲載

伝統をささえる

秩父屋台囃子(埼玉県秩父市)

秩父屋台囃子保存会会長 小林健助さん
「秩父社中」師範格 根岸恒太郎さん


   日本三大曳山の一つ、秩父夜祭。秩父神社の例大祭は、山間盆地特有の厳寒のなか、師走1日から6日まで続くが、うち荘厳華麗な笠鉾と屋台が市街地を巡るのは中日の12月3日である。この日、秩父の町は20万人もの人出で賑わう。
曳行される笠鉾・屋台を陰で支えるのが秩父屋台囃子だ。床下の腰幕あるいは後幕で囲まれた中で囃子は演奏される。
  「陰で」とはいっても、屋台囃子の役割は重要だ。外からは見えないが、当日朝から翌日未明までの巡行のあいだ、途切れることなく演奏は続き、曳き手の気持ちを一つにまとめ、鼓舞する。
  秩父屋台囃子保存会会長の小林健助さんは「顔は出なくても、なくてはならないもの。そしてやはり、祭礼の伝統を継承しているという意識です」と胸を張る。
  さらに「祭りだといって、たんに騒いでいるのではない。氏子として神様への感謝がまず第一。それがなければ意味がない」と付け加える。
  熱意、誇り、囃子の技、そして神への崇敬……。すべては屋台町の六町会ごと、小学生の頃から練習に加わり、実際に祭りに参加することで、氏子らの体に染み込んでいくものという。だから「後継者不足に困ったことはないですね」(小林さん)
  祭りの迫った11月下旬、各町会では「ならし」と呼ばれる練習会を行なう。また、月を決めて町会ごと、秩父神社の社務所の一室を借りて月割り当番の練習をする。手本や楽譜もなく、リーダーによる指導もほとんどないという。子供は大人の演奏を耳で聞き、感じ、やがて自分で太鼓を叩き、鉦を鳴らすことで、次第に自分の屋台囃子≠作っていく。

「秩父の太鼓は心臓の鼓動」

  伝統とはいえ、時々の瞬間の気味を感じながらの演奏。個性や独創性が豊かに流れているのが秩父屋台囃子だ。とくに太鼓の演奏は個性的な要素を多分に含んでいる。
  秩父屋台囃子の高い技とその紹介活動で名をはせた初代・高野右吉の精神を継ぐ「秩父社中」は、太鼓演奏を大きく打ち出しながら、国内はもちろん海外でも公演を行ない、屋台囃子の認知に力を注いでいる。これまでに世界18カ国、数十回の海外演奏を実現し、好評を博してきた。
  屋台に乗りたい、叩きたいという若者が詰めかける。
  「秩父社中」師範格の根岸恒太郎さんは「秩父屋台囃子の太鼓のリズムは心臓の鼓動。コトン、テケ。鼓動がそのまま太鼓になっている。だから若い衆が感動し、言葉の通じない海外の人も心を奪われるんですね」と、その躍動感と人気の秘密を明かしてくれた。

     ◇

  秩父神社の例大祭(秩父夜祭)の付祭として、6つの屋台町(町内や近在村落など)が繰り広げる屋台行事。屋台は大きく「笠鉾」と「屋台」に分けられる。
「笠鉾」は中近と下郷、「屋台」は宮地、上町、中町、本町で、計六台ということになる。
  なお、紹介した秩父屋台囃子は、屋台行事の他の要素(笠鉾と屋台の曳行、屋台芝居、曳き踊り)や秩父神社の神楽とともに昭和54年2月3日、「秩父祭の屋台行事と神楽」として国の重要無形民俗文化財に指定された。

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