神道国際学会会報:神道フォーラム掲載
連載: 神道DNA 『ETに騙されるな』
三宅 善信 師


    この原稿が読者の皆様の目に届く頃には、世の中の話題は、G8洞爺湖サミットの喧噪も鎮まり、北京オリンピックのお祭り騒ぎに浮かれている頃だと思う。ひょっとしたら、日本の政局も「暑い夏」を迎えているかもしれない。洞爺湖サミットの大きな柱のひとつが「地球温暖化防止」問題であることは言うまでもない。一年前、時の安倍内閣が2008年のG8主要国首脳会議の会場を交通の不便な北海道の洞爺湖に決めたのも環境問題を意識してのことに違いない。だから、先進国であるG8に加えて、エネルギーの大量消費国である中国とインドがゲストとして招かれたのである。
 そもそも、省エネが進んだ西欧と日本が『京都議定書』の枠組みを遵守したとしても、世界最大のエネルギー消費国であるアメリカと、巨大な人口を抱えて急激な経済発展の続く中国とインドが枠組みに入らなければ、「地球温暖化防止」は絵に描いた餅である。「中進国」である中国やインドが大量の二酸化炭素を排出するのは、ある程度やむを得ないとしても、「先進国」であるアメリカが、厚顔無恥にも「途上国に削減義務を課さない『京都議定書』の構造は承伏できない。自らの経済成長を犠牲にすることはできない」と、猛烈に二酸化炭素を排出し続けてきたことは明白な事実である。
 ところが、最近、アメリカの様子が少し変わってきたのである。もちろん、この一年間で原油価格が倍増し、完全な車社会であるアメリカ市民の間にも、「省エネ」や「温暖化ガスの排出抑制」という意識が芽生えてきたのも事実である。ただし、万事「金儲けがインセンティブ」になるアメリカ社会を変革させるには、「温暖化防止がいかに金儲けに繋がるか」ということが目に見える(お金に換算できる)形を取らなければならない。
 そこで、またぞろ蠢き出したのが、アングロサクソン流の「金融資本主義」という怪物である。1980年代を最後に、産業革命以来優位を保ってきた「ものづくり」において、日本(後には、NIES諸国や中国等)に完敗したアングロサクソン人たちは、金が金を生み出す「金融資本主義」というシステムを打ち立て、これを「グローバルスタンダード」として世界中に強要して、東インド会社以来400年間搾取し続けてきた構造を新たに延長させることに成功した。
 デリバティブと呼ばれる高度な金融工学的手法を用いた錬金術の多くが全くのインチキであったことは、サブプライム問題が世界の資本市場に与えたマイナスの影響の大きさからも、今となっては皆、理解したことであろう。信用度の低い人々の住宅ローンに「証券化」という「魔法の粉」を振りかけて、AAAの金融商品にでっち上げ、世界中から巨万の富を巻き上げたのである。デリバティブとは、そもそも価値が極めて低いものを『わらしべ長者』のごとく、取り替えていって、最後には巨万の富を手に入れるというお伽噺である。
 ハゲタカである彼らが「土地の証券化」の次に目をつけたのが、CO2の排出量取引というマーケットである。簡単に言うと、『京都議定書』が定める排出量の枠を超えている国や企業が、まだ余裕のある国や企業との間で、その炭酸ガスの排出権の売買をするという市場を創り上げたのである。炭酸ガスという無価値なもの同士の排出量をスワップするというとんでもない詐欺紛いの行為である。しかも、この「排出量取引(Emissions Trading)」という行為自体は、地球全体で見れば、1トンの炭酸ガスの削減も意味していない。ただ「山を削って谷を埋めた」だけのことである。
人類が全力を挙げて取り組まなければならないことは、「温暖化ガスの排出削減」であるはずである。われわれ日本人がしなければならないことは、神世の昔以来、コツコツと続けてきた勤勉な労働であり、長い歴史の過程を経て洗練された「もったいない」や「おかげさまで」精神であるべきである。決して、アングロサクソンが創出した「ET(排出量取引)」というフィクションではないことは明らかである。


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