神道国際学会会報:神道フォーラム掲載

宗際・学際・人際

林 淳 
(はやし・まこと)


愛知学院大学教授

近世陰陽道の研究…そして「日本宗教史」へ
 史料を読み込む実証性も重視

 林淳氏の宗教学における視野は実に広い。一方で、細かい史料まで読み漁り、系統立てていく学問的な緻密さには定評がある。この両側面が相まって、初めて近世陰陽道の全貌を明らかにし得たのであろう。林氏が挑み続けているのは、「日本宗教史」という未知なる領域だ。

              ◇

 私が学んだ東大の宗教学科では、先生がたは学説史の専門家ばかりでした。学説については博識でしたが、じっくり史料を読む実証的な研究をやる人はいませんでした。学説史も大切ですが、狭い感じがしました。仏教史ならば辻善之助、神道史ならば宮地直一、西田長男、民俗学ならば柳田国男とか、そうした先学の研究につながっていくような研究を行いたいと思っていたのですが、どのように、どこに向かってスタートしたらよいのかが、わかりませんでした。
 現在の勤務先である愛知学院大学に着任した折りに、歴史学科に村山修一先生がいて、村山先生の授業に出させていただきました。『日本陰陽史総説』をテキストにして、それを解説するという講義でした。その頃に京都府立資料館にある若杉家文書という陰陽道関係の文書があることを知り、大学院生と、若杉家文書にある史料を読む会を開きました。その研究会は、今思い出しても楽しい思い出であり、近世陰陽道の研究に入るきっかけになりました。
 その後、木場明志さん(大谷大学教授)、高埜利彦さん(学習院大学教授)と会う機会があり、いろいろ教えていただくことができました。高埜さんの『近世日本の国家権力と宗教』の影響が、1990年代には広がっていき、若い世代の近世史研究者のなかに、宗教者に関心をもつ人が多くなりました。近世の宗教史は一種のブームと言っては大げさかもしれませんが、多くなったのは確かです。
 木場さん、高埜さんから刺激を受けながら、そして1990年代の近世宗教史の活性化にも励まされながら、『近世陰陽道の研究』(吉川弘文館)という本を出しました。従来の成果にもとづきながら、近世陰陽道の全体像をスケッチしてみたものです。陰陽師が中心ですが、修験、万歳師、暦師、神事舞太夫、梓神子など、さまざまな宗教者、芸能者をも扱いました。
 2年前には『天文方と陰陽道』(山川出版社)という小さな本を出しました。これは、陰陽道研究の副産物です。将軍綱吉の時代に改暦が、823年ぶりに行われます。それは、渋川春海と陰陽頭の土御門泰福がいっしょに尽力した貞享改暦です。春海は、その功によって初代天文方になります。近世を通して天文方と土御門家との関係を追いかけてみました。これからの仕事として、地方の天文暦学者、土御門家、幕府天文方との相互関係を明らかにする研究をしたいと思っております。
 今年1月には『季刊日本思想史』(ぺりかん社)で「近代日本と宗教学」特集号を編集しました。近代社会における宗教学や宗教研究の位置やその政治的意味についても関心があります。
 陰陽道や学問史に関心を持ちながら、仏教史、神道史、陰陽道史、民俗信仰などを組み入れた「日本宗教史」を描くことが私の目標です。


Copyright(C) 2008 SKG all rights reserved
当ウェブサイト内の文章および画像の無断使用・転載を禁止します。