神道国際学会会報:神道フォーラム掲載

宗際・学際・人際

J・P・ムケンゲシャイ・マタタ氏


オリエンス宗教研究所所長

「生命動脈」―いただいた命の意味を考えて―

宗教研究とともに実践に尽力

 いまの私の関心は、「学術研究を現実や日常レベルに移したい」ということです。私は今や、「宗教研究」から「日常」に降りているつもりです。学者の説くところの宗教理解は大事ですが、究極的にはやはり実践だと思っているところです。
 現代社会は「心なき時代」「痛みなき時代」です。相手の心、相手の痛みを考えない時代です。自殺や殺人事件を聞かない日はなく、高度の技術文明は物質最優先の思考で成り立っています。
しかし、心や豊かな生命観をなくして宗教というものは成り立たない。ということは、いまの時代に宗教は何をなすべきか、宗教の役割はなんなのかをもっと真剣に考えることが大事なのではないでしょうか。
  私は「生命動脈」という言葉を使いたいと思います。命のつながり、命の継続です。祖先と結ばれて生きるということ、私の命はいただいたものであるということ。これを訴えていくことが宗教の、あるいは宗教者の大きな役割です。
   人の心を豊かにし、平和な社会を作るために、各宗教が宗派を超えて、それぞれの持ち味を出して、生きることの意味や死生観を、肌感覚で人々に伝えていくことが、今ほど大事な時代はないでしょう。それには各宗教が互いを知り、互いを受け入れていかねばなりません。
 私が5代目の所長を務めている、ここ「オリエンス宗教研究所」は、カトリック布教の点から人材教育や、教材・書籍の制作を行なっていますが、同時に、日本文化を海外に紹介したり、宗教対話を促進したりすることにも力を入れています。立場を超えて、互いが一歩前に出ないと、理解は始まらないからです。
 私自身も日本文化のこと、日本の死生観のことを、関心を持って研究し、それが現代社会の直面している問題にどう活かされればいいかを考えています。神道との出会いが、私の日本文化の理解につながりました。そして、儀礼と宗教行事はみな「感謝」の心であることを納得しました。
 日本人は日本の持っている本来の心を取り戻すべきです。「ごちそうさま」「おかげさま」。共同体のなかで、互いを認め合い、感謝しながら生きることをもっと深く考えることが大切です。
 祭りでは穢れが清められ、自然に近づいていく。神道でいうムスビの大きな思想のなかで、神との縦のつながりとともに、人間同士の横のつながりも意識していく。そこに命を捉え、相手の目線で自分が生きていくというすばらしい思考が込められていることに気づくべきです。
    宗教者は、それを知識として教えるのではなく、生身の人間同士として伝えていく。それが日常の実践ということなのです。(オリエンス宗教研究所にて)



 マタタ氏は1960年、コンゴ民主共和国生まれ。アウグスティヌス大学、サン・シプリアン神学大学卒業後、来日。上智大学、同大学大学院修了。修士論文は「現代の日本における救いの問題=日本の宗教心から見たイエス・キリスト」。カトリック東京教区広報委員。1998年からオリエンス宗教研究所所長。著書・論文多数。



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