神道国際学会会報:神道フォーラム掲載
神道国際学会理事の「ホットな近況から」
栗本慎一郎理事  *  國弘正雄理事

栗本慎一郎理事

間もなく刊行 日本の古代社会論
「古代史?人類の大きな文明史から見なきゃ意味がない」


 まもなく最新著書『シリウスの都(仮題)』(たちばな出版)が刊行される。専門の経済人類学の視点から日本古代の権力構造や信仰意識に迫った「古代社会論」だ。
 古代史家らに早くから知られていた考古学的な事実がある。古代遺跡や主要な前方後円墳、一部の社寺の主軸が真北から西に二十度あるいは十五度ほど傾いていることである。
 「ところが、事実に気づいてもその意味が分からない。分からないもの、都合の悪いものは放っておく――。学者にはそういう悪い傾向がある」と手厳しい。
 古代の権力者が方位・方角を意識しながら持っていた宗教的な価値観。『シリウスの都』ではその事実の意味するところを、広く中東や北方アジアの文明史のなかに位置づける。「シリウス」というからには太陽信仰や星辰信仰などとの関連が予想されるところだ。
 その分析は歴史学や考古学が使う概念とどう違うのか?
 「例えば『双分制』。近世になるが西アフリカのダホメ王国は王も都市も軍隊も二つ。社会が完全な『双分制』をとっていた。古代日本にもこれと同性質のものがあったんだという視点を機軸に分析し、問題を論じたのです」
 では「双分制」という価値観はどこから、どこを経由してやってきたのか。日本に持ち込んだのは誰か。古代飛鳥の政争は何を意味するのか――。それは『シリウスの都』を開かなければ分からない。
   ◇    ◇   
 こうなってくると、国政や社会問題などで、硬軟織り交ぜた論評でマスコミをにぎわせた栗本慎一郎も、ついに古代史ミステリーの世界へシフトか?
 「古代史が面白いってよく言うでしょ?そういうミステリー的な面白がりかたが、面白くない。人類の文明史全体のなかで意味を持たなきゃそれこそ意味がない。遊びにすぎない古代史に僕は今後も巻き込まれないようしようと思う」
 きれい事で丸く収めない辛めの口調は健在である。
 平成十一年、衆議院議員の在任途中で脳梗塞に倒れ、半身麻痺をリハビリで克服。大学教壇にも復帰した。
 「研究者などから考えられているようですよ。『あいつはどうも本格的に学界に復帰してくるようだ』って。事実、そうなると思いますね。これまでは少し大人しくしてましたが」
 人間という生物の本質に迫ったベストセラー『パンツをはいたサル』『パンツを捨てるサル』に続く完結編『パンツを脱いだサル』も近日刊行の予定。


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國弘正雄理事

誇りたい多神論の世界観 二者択一の排他主義を憂う
 「山川草木に神が在る―いい所に生を受け、しみじみ感謝しているよ」


 テレビ・ラジオ英語講座の講師、大学教授、外務省参与、そして参議院議員……。
“同時通訳の神様”といわれたアメリカ通が今、ブッシュのアメリカを考えると憂鬱だという。
 「十三年滞在した親愛なるアメリカ。だが今や反米ですよ」
 我慢ならない理由の一つは、ブッシュ大統領に象徴される南部原理主義的なキリスト教の世界観が全米を覆い尽くそうとしていることらしい。
 「一神論以外の世界は認めないという発想。ゼロか一か、有るか無いか――二者択一を迫るデジタルな論理。俺が唯一の真理だからおまえは間違っていると力尽くで通そうとするのはウンザリ」とため息をつく。
 神道にひかれるのは多神論といっていい豊饒なる世界観。「山川草木いたるところに神性を見る。人間だけが絶対で、ほかは人間に奉仕すべき存在だなどという独善もない。多神論の我々の価値観はすばらしい思想だと思う」
 物心のついたころは戦時下の世相極まり、中学三年で敗戦。さんざん苦労したので「国家神道だけは絶対イヤ」という。「あれは日本の悪しき一神教化だったんじゃないか。でも本当の “神ながらの道” は本来そうじゃないはずなんだ」
   ◇    ◇
 多神教的な思想の現代的な意義を外国の人にも理解してもらおうと、昨秋、日本在住の大使館員やプレス関係者を前に英語で講演した。東京で開かれた本会主催の「神道コロキアム」がそれ。「相互排他的で二者択一的な価値観」と「相互浸透的で両立を可能とする価値観」を対比し、東洋思想が国際社会の融和に有効な論理思考であることを必死に説明した。
 「四句分別」の考えなど英語で説明するのは大変だったはず。「でも『こういう論理もあるんだよ』と言っておきたかったんです。それは日本人、アジア人である僕らが誇っていいことだからね」
 逆説的だが、価値が複数存在するということだけが絶対であり、そこには矛盾もあり、対抗しかねないこともある。「『あなたと僕とでは同じ意見ではあり得ない。でも、意見が違うという点においては合意できるよね』という捉え方。それが僕の好きな英語 “アグリー・トゥー・ディスアグリー”。英語にもあるんだけどねぇ」
 「それにしても、一人の日本人として生を受け、東洋思想に触れる機会があって、山川草木に八百万の神様がいるところに生きている――これには無限に感謝している。良いところに生まれたと思うよ」。しみじみと語る“同時通訳の神様”なのだった。


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