神道国際学会会報:神道フォーラム掲載
思い出あれこれ (1)  櫻井勝之進氏

粳米(うるちまい)づくり

 あれは熊本県の菊池神社に赴任して、たしか三年目、昭和二十二年秋のことであった。粳米は崇敬会の人々の献納によって神供に不自由はなかったけれども、糯米は一粒も寄進がないのに祭典毎に鏡餅が供えられていることにふと気付いて職員に尋ねたところ、あれは闇で調達しているとのこと。神様に闇米とは!。私は気付くのが余りにも遅かったことに耻じ入った。
 そうだ、皆で糯米を作ろうではないか、と早速その準備にとりかかった。先ずは桜の苗を育てている畑をそれに宛てることとして苗木を他へ移し、翌春から農業経験のある用務員に教わりながら、宮司以下五名の職員が交代で作付けから取入れまでどうやら漕ぎつけた時の満足感は、今も忘れられない憶い出である。
 これを二年ほど続けているうちに氏子総代の一人が気付いてくれて、宮司さんまで畑仕事とは何とも相済まないことであったと、すぐさま村々の世話方に議ってくれて、今秋からは一般は粳、世話方は糯米を献納すると申し出てくれたのであった。かようにして陸稲作りは僅か二年で終わったのであるが、このことは菊池の宮司時代の何よりなつかしい思い出の一つである。    (平成17, 2,11)


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