第18号 11月15日刊行 神道国際学会会報:神道フォーラム掲載
連載: 神道DNA 『インドの山奥で…』
三宅 善信 師


    「インドの山奥で修行して…♪」と聞けば、50歳前後の日本人ならおそらく誰でも知っているであろう。ご存じ『愛の戦士レインボーマン』のテーマソングである。1972年に放送された川内康範原作のこの番組は、「等身大変身ヒーローもの」というカテゴリーに属するが、当時流行した「怪獣もの」などとは一線を画する作品であった。「敵」は子供騙しの怪獣などではない。マカオにアジトを置き、日本人のことを限りなく憎む秘密結社『死ね死ね団』の首領ミスターKが次々と繰り出す悪事に単身立ち向かっていく等身大ヒーローなのである。このミスターKは、無辜(むこ)の市民を拐(かどわ)かしたり、偽札を大量に流通させて経済を混乱に陥れようとしたりするあたり、こんにちの「北のK将軍様」を彷彿とさせる。
    この川内康範という日蓮宗の寺に生まれた御齢87歳の人物は、実に多くの「顔」を持っている。「政治評論家」としては、福田赳夫の秘書を務め、鈴木善幸や竹下登とも親交が深かったことは案外知られていない。川内康範と言えば、なんといっても、原作と脚本を務めた『月光仮面』が有名であるが、20年にわたる長寿番組となった『まんが日本昔話』の監修を務めるなど、放送界でも幅広い活躍をした。歌謡曲の作詞家としては、『骨まで愛して』・『花と蝶』・『伊勢佐木町ブルース』などの代表作があるが、今春、歌手森進一との間で繰り広げられた『おふくろさん』の無断歌詞追加騒動などでも、健在ぶりを見せつけた。また、1984年の『グリコ・森永事件』の際には、犯人に対して「私財一億二千万円を提供するから手を引け」と週刊誌上で呼びかけたりもした。ほとんど同一人物とは思えないくらいマルチな人格である。
    私は、この秋、インド北西部のヒマラヤ山麓ダラムサラにあるチベット亡命政府を訪れ、ダライラマ14世法王と75分間にわたって親しくお話しをする機会に恵まれた。ダライラマ法王に関しては、私がここで説明するまでもない。1959年、中国共産党の弾圧を避けて、代々住み慣れたチベットのラサのポタラ宮殿から命懸けで「世界の屋根」と呼ばれるヒマラヤ山脈を越えてインドに逃れた後、民主的な亡命政府を樹立し、今なお中国国内や世界中で難民となっている数百万のチベット人たちのシンボルとして、1989年にノーベル平和賞も受賞した宗教的指導者である。
    チベット仏教(ラマ教)徒たちは、彼を観世音菩薩の生まれ変わりの「活仏(かつぶつ)」として崇拝している。観世音菩薩は、衆生を済度するために何度でも化身してこの世に現れると信じられている。熱心な法華経の徒であった川内康範は、『妙法蓮華経観世音菩薩普門品第二十五』(一般に『観音経』と呼ばれる)から、大いなるヒントを得て、正義心に燃える青年ヤマトタケシとその師ダイバダッタ仙人の活躍する活劇『愛の戦士レインボーマン』を創ったのである。人々を救うために七変化するレインボーマンは決して「無敵」のスーパーマンではない。弱さを抱えた生身の人間である。
    この世に「現身」を持って存在し、代を重ねて人々に生きる力を与え続け、かつ人々の崇敬を一身に受け、民族の統合のシンボルであるダライラマ法王について考えることは、わが天皇制について考えることとある意味軌を一にしていると思うのは、私だけであろうか…。ダライラマ法王は、この11月18日、伊勢の地を訪れられる。

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