神道国際学会会報:神道フォーラム掲載

話題のこの人

東京大学「神社・神道研究会」を立ち上げた  
東大大学院生 江端希之さん

学術から気軽な探訪まで "神社系総合サークル"を目指す
自由な議論、激論を交わすサロンの役目も

 このほど東京大学に大学の公認サークル「神社・神道研究会」を設立。立ち上げに奔走し、初代会長に就任した。國學院・皇學館の両大学は別として、全国でも稀有の"神社系総合サークル"である。
    大学には、仏教系やキリスト教系のサークルは数多い。「ところが神道に関するサークルは一つもない。また、東大には神道に関して体系的・包括的に学べる科目が存在しない。これは偏っているのではないか。神社好きや、神道を学びたい学生もいるはず。大学側がやらないならば、学生たちの方で、そういう場を作ってしまおう。他に誰もやる人がいないならば、とりあえず自分が『器』だけでも作ってしまおうと」
    仲間に声をかけ、ネットのブログ等でサークル設立を呼びかけた。「大学名は問いません。大学院生も歓迎です」。すると、学内はもちろん他大学からも「応援する」「参加したい」との声が寄せられ、所期目標は一気に実現してしまった。公認条件の一つ、顧問教員も、『神道の逆襲』などの著書で知られる日本思想史の菅野覚明教授(神道国際学会の理事でもある)から二つ返事でOKをもらった。
    いよいよ今後だが、「神社好きが交流できる場を提供すること。学術的な勉強だけでなく、お祭りや神社巡りを楽しんだり、舞楽や神楽を練習するなど、会員のニーズを取り入れ、神道に関することを幅広く網羅したい」。もちろん「政治団体でも宗教団体でもなければ、特定の思想に根ざした集まりでもありません」
    会員の関心に合わせ、分野別に五部会に分けた。神社・神道学究部会(いわば勉強部会)、神社・仏閣探訪部会(いわばフィールドワーク部会)、民俗学的事象調査部会(硬い名前だが、いわば和風オカルト探求部会)、雅楽部会(雅楽の練習・演奏)、舞・神楽部会(舞や神楽の練習・演舞)。「理系の学生が『量子力学・カオス理論から神道曼荼羅を考えてみたい』と言ってくるなど、早くも自由で総合的なサークルとしての現象が出てきています」
    今年の学園祭「五月祭」では外部講師による講座を開催。また構内の「三四郎池」で巫女舞を催すなど始動を見せている。無人神社の清掃などボランティア活動も懸案事項だ。「3月の能登半島地震では神社の倒壊もニュースになった。こういうとき、どういう活動ができるかも考えないと……」
    サークルとはいえ運営に関してさまざまな思いがめぐる。「残念ながら、『神道』というだけで忌避する人がいることも確か。神道を即特定のイデオロギーと直結させるような、一部の人々の神道に対する偏見を払拭したい」と正直な気持ちを打ち明ける。
    そのためにも、サロンのように自由な議論のできる場を目指すとのこと。加えて、「靖国問題」にみられるような、立場を異にする識者を複数招いての議論の場を設け、社会に提供する機会をも狙っている。「もっとも、せっかく楽しく、うまく軌道に乗り始めたのに、『ややこしい問題を持ち出すな』というメンバーが出てくるかもしれませんが」と笑った。
    東京大学大学院総合文化研究科に在籍中。専攻は宗教人類学。「カリブ海域ヒンドゥー教圏(仮称)における宗教」をテーマに修士論文に取り組んでいる。大学院入学後、國學院大学の神職養成講習会で神職資格を取得した。早稲田大学および大阪大学の学部時代は世界10数カ国をバックパッカーとして旅し、現地の宗教事情なども観察した。「今でも普段からフラフラ歩いているような人間で、本当は『会長』なんて似つかわしくないのですが」

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