神道国際学会会報:神道フォーラム掲載

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『古代技術神の足跡と古社』     菅田正昭著

 この本は『歴史読本』の平成17年1月号から12月号に連載した『古代技芸神の故地を往く』を4分の1ほど加筆したものである。その執筆の動機は、『新撰姓氏録』の「山城国神別」の「天神」の項に登場する、わが名字のルーツかもしれない「菅田首」の祖神・天久斯麻比都命への関心である。この神は天目一箇命とも記されるが、民俗学者の柳田國男によれば、「一つ目小僧」とは鍛冶神・天目一箇命が零落したものである。踏鞴師はタタラの内の鉄の溶解状態をホド穴から覗くことから、また鍛冶屋の場合は鉄を打つとき真っ赤に燃えた飛び散る鉄片で目を傷める、という一種の職業病になることが多いからである。
 わが天目一箇命は、記紀が中臣=藤原氏に有利に編纂されていることへの憤懣の書として、斎部廣成が大同2年(807)、平城天皇へ撰上したという『古語拾遺』によると、「筑紫と伊勢の忌部の祖」である。斎(忌)部の独自の伝承を「古語」という視点から捉えた『古語拾遺』を読むと、古代の技術神を斎部氏の祖神・太玉命の勢力下に編成させようとの精神的文脈が読み取れる。そこで、太玉命の伴緒としての技術神・芸能神の足跡を、『延喜式』神名帳に記載された神社と付き合わせながら、実際に訪ねてみることにした。もちろん、その全てに参拝することはできなかったが、現地を訪ねて地形や地名や、要するに霊的バックグラウンドとしての環境に身を置いてみると、いろいろなことが観えてくる。
 ふつう忌部というと、太玉命の末裔の斎部氏ではなく、天日鷲命を祖神とする阿波忌部が大麻の栽培のため、阿波国(徳島県)から安房国(千葉県)へ移動したという阿波忌部のことが想い起こされるが、この本では安房から阿波へという逆のコースを辿った。また、取材の過程で忌部氏系以外の、たとえば物部氏系や、多氏系の古代技術神たちも、侮れない存在であることを強く再認識した。そうした神々を職業神とした古代の技術者の足跡があってこそ、今日の日本の技術力があるのだ、ということも強く感じた。採り上げた神社は、地域的に若干、偏っているかもしれないが、古代技術神じたいはかなり広範囲のはずである。ぜひ多くの方に読んでいただき、実際に、それらの神社を参拝していただけたら、と思う次第である。

▽6375円
▽新人物往来社=03(3292)3931

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