神道国際学会会報:神道フォーラム掲載
神道国際学会理事の「ホットな近況から」
アレックス・カー 理事

古い京町家を再生し、活かす
伝統文化の体験研修もプロデュース
「大切な原風景――まずは自分の町に愛しい気持ち持って」

 日本の民家や庵を再生する事業に情熱を注ぐ。ひとまず手掛けているのが、京都の古い町家(町屋)。京町家は消滅寸前とまで言われているので、まさに滑り込みセーフの感もある。
 たんなる“保存”や“文化財” は目指さない。「家が生きていなければ意味がない」といい、借り上げた町家は住むに快適、宿泊や研修に利用可能なまでに改装し、再生する。すでに六、七軒、市街に点在する町家が活き活きと甦り、活躍中。いずれは全国各地に再生活動を広げていく意向だ。
 それぞれの風土に合致し、景観としても美しい。だからこそ先祖代々、受け継がれてきた住まい。「この伝統的な生活文化を残すことがいかに大切か。国内外の人たちに知ってもらいたいのです」
 「民家再生」の精神に絡んでもう一つ、力を入れる事業が伝統文化研修プログラム。茶道、書道、能、武道、そして伝統工芸……。京の歴史と文化を育んだ芸道に挑戦し、味わってもらう。
 一泊二日、わずか一日や半日の場合もあるが、あくまで実践が中心だ。「まずは空気に直接触れる、自ら体験することが大事。実際にやってみると、何のためにやるのか、何が大事なのかが分ってくる」との信念がある。やはり町家や庵を活用する。部屋を研修室に使い、古い倉庫を稽古舞台に仕立てる。指導はそれぞれの道の専門家に協力を仰ぐ。
 一昨年、アメリカのブッシュ大統領が来日した際、ローラ大統領夫人も再生町家を訪れ、このプログラムに沿って書道に初挑戦した。
 「じつはプログラムを始めた当初は、伝統文化の世界への発信というか、外国人が対象目的だった。でも最近は日本人も多い。それも若者から年配の方まで」
 長く日本に住み、日本人以上に古来の風景と文化に親しんできたが、近年は、歯止めのかからない景観破壊、精神の荒廃に、辛口で悲観的な著書や発言が目立った。伝統文化研修プログラムのタイ版@ァち上げのため、バンコクに拠点を構えたときも、多くの人が「ついにアレックス・カーも日本を去った」と思ったらしい。
 だが、「それは大げさです。日本とタイを往復して、活動しています。日本でも結構あちこちで頑張っている人達も、団体もあるんですから」
 「プログラム」参加者が増えているだけでなく、一部ではあるが、政府や自治体も景観保護などソフト面の見直しに重い腰を上げ始めた。それを反映してか最近は、国交省主催の景観に関する選定委員、北九州市の景観政策のメンバーなど、あちこちから諸委員への就任要請があり、また講演の依頼も舞い込んでいる。
 「本当に、やっとだけれど、日本人も原風景の大切さを真剣に考え始めた。その変化を感じています」
 そして「自分の町や国の姿にプライドと、いとしいと思う愛情を持って欲しい。そうすれば自然に大切なものが分ってくると思う」と話す。
 アメリカ生まれ。12歳から二年間、父の仕事の関係で横浜に住む。エール大学日本学部卒。21歳のとき、四国・祖谷の茅葺民家に魅せられて以来、主として日本在住。東洋文化研究家であるとともに、芸術・文化に関する指導・プロデュースを手掛ける。著書『美しき日本の残像』で新潮学芸賞受賞、ほか『犬と鬼――知られざる日本の肖像』など。


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