神道国際学会会報:神道フォーラム掲載

From Abroad - 外国人研究者紹介
ファビオ・ランベッリ氏


札幌大学文化学部教授


文化の独自性は他文化との取り組みの中に現れる

アジアにおける仏教と在地信仰の関わり


 「じつはキリスト教も在地信仰を否定せず、様々なかたちで包含してきたのです。逆説的にいえば、在地信仰を受け入れることができなかったとしたら、キリスト教も普遍宗教にはなれなかったかもしれない」
 日本での一般的な理解からは意外な考察だが、「明確に言説化されなくとも、複数の考え方、場合によっては対立する考え方が常に共存している。大事なのは、そこに目を向け、多様性に留意すること」と、研究のあるべき姿を強調する。
 この「キリスト教と在地信仰」を比較のためのセットとしながら、本格的に取り組んでいるのが「アジアにおける仏教と在地信仰との関わり方」だ。「これは、在地信仰としての神道の歴史性を、より正確に理解することにつながるのです」

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 関連して出てきたもう一つの課題は、日本文化史におけるインド文化の影響、というテーマ。「一般的に日本史の叙述では中国文化の影響しか取り上げない。でも、少なくとも近世まではインド的な要素――これは仏教だけではないのですが――が重要な地平線になっていたと思われる」と言い、具体的な調査に乗りだそうとしている。
 「関わり」「影響」という点について、一つの重要な視座を示してくれた。「私の考え方では、ある文化の独自性というものは、差異性というだけでなく、むしろ他の文化との取り組み方――関連性といってもいいのかもしれませんが、そこにこそ認められる。異文化要素の取り入れ方には、その文化の特徴が現れます。日本だってそう。とくに宗教の場合、破壊・排他性のみ強調される現在、全ての宗教に存在するはずの習合的な思想を強調する必要があると思います」

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 研究課題に対しては、方法論として「文化記号論なども活かしたい」というように、空海の『声字実相義』や、覚鑁の記号論的思想について、その後、記号論的な発想の社会背景や歴史、イデオロギーについて研究を重ねてきた。日本宗教・思想史に見られる様々な象徴システムの解釈や利用の仕方に注目。記号体系とそのメカニズムのみならず、社会的なインパクトにも関心を向けている。
 イタリア生まれ。ヴェネツィア大学卒。京都大学や東京外国語大学に留学。ナポリ東洋大学で博士号を取得し、各国大学の客員研究員、教職を歴任。日本宗教研究家として編著、日本語訳も多い。マーク・テーウェン教授との共著『Buddhas and Kami in Japan』は、神道国際学会のグローバル・ネットワーク基金を得て出版したもの。サックスとフルートを吹く。ジャズや実験音楽だが、最近は研究にも絡んでか、南インドの音楽に大いなる関心を寄せている。

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