神道国際学会会報:神道フォーラム掲載
神道国際学会の昨年、そして今後の展開
薗田稔会長に聞く

海外で神道を追求する人に出会い
国内の精神課題を振り返った一年


―昨年の事業を振り返りつつ
 3月に京都で開催した第10回神道セミナーでは、外部からお招きした講師を含め、「森に棲む神々」について様々な角度からお話いただき、映像上映や歌曲なども盛り込んで賑やかな、かつ充実した内容とすることが出来ました(18年5月15日付の当会報に詳細)。
 9月には国連広報局認可NGOの年次世界総会がニューヨークの国連本部で開かれ、本学会関連団体でNGOのインターナショナル・シントウ・ファウンデーション(ISF)も参加しました。期間中、やはりNGOのオイスカ・インターナショナルと共に分科会「鎮守の森を地球の隅々に」を共催し、「国際砂漠年」にちなんで、世界の環境保全に向けて森林育成への働きかけを行ないました。「オイスカ」の中野良子総裁と私が講演し、中野氏は農業開発や植林などで各国を支援した体験に基づいてお話されるなど、感銘深い意義ある分科会でした。
 一層、印象に残ったのは、その前日にISFニューヨーク・センターで開かれた神道文化特別セミナーです。中野氏と私がゲストスピーカーだったのですが、比較的に若い世代の男女が集まってくれ、非常に熱心に話を聞いてくれました。国際的な場で活躍している日本人が、日本人としてのアイデンティティを求め、その延長で「神道って何だろう」と真剣に問いかけているのが印象的でした(以上、同11月15日付の当会報に詳細)。

NY在住の或る初老の男性の話

 じつは、ニューヨーク滞在の合間に、「是非会ってくれ」という還暦を迎えた日本人男性と話をしました。
  彼は「大卒後すぐに渡米して、ずっとこちらで仕事、生活をしてきた。だが米国籍を取るつもりはない。京都に墓があるので、そこに骨を埋めよう、と家内と話している。ただ、今更ながら思うに、神道のことを何も知らずに60まで来てしまった。寂しく思うのは、子供達が完全にこちらで育っているので、なおさら日本の儀礼や、祖先や死者の供養を知らない。京都の墓に入っても、お参りにも来てくれないのではないか。日本の死後の祭りとか神道を教えてやりたいが、どう教えていいのかも分からない」と切々と語るのです。
 ニューヨーク・センターのセミナーの聴衆もそうですが、この男性の姿も、じつは日本国内の状況でもあるような気がしてなりませんでした。若い世代も、団塊の世代も、皆が持っている精神状況とあまり変わらないのではないか。その意味で、国内の課題を改めて振り返るためにも、心に深く残るニューヨーク出張だったわけです。

他民族の宗教史との比較研究に新傾向

―本学会の神道研究の方向について
 10月にはイタリア・ベニスで、国立カ・フォスカリ大学と共催で国際ワークショップ「神道をめぐるシンボリズム」を開催しました(同11月15日付の当会報に詳細)。
それぞれの発表もさることながら、一つ感じたのは、「海外の神道研究者にも神道の比較研究という傾向や側面が出てきたのかな」ということです。比較宗教学とはよく言われる言葉ですが、「海外などの他宗教や他宗教史と比較して、神道なり日本の宗教の特徴なりを考える方向が見られるな」と思ったわけです。
 我々日本の宗教学者はそういう見方もしてきたつもりですが、海外の神道研究者はこれまで、日本仏教との関わりで神道を論ずることが多かったわけです。

現代社会に問う神道神学′、究あっていい

 今回の発表で、例えばマーク・テェーウェン理事(オスロ大教授)は、アジアの他の諸国の民族宗教は歴史の流れの中で、たとえばイスラムやヒンズーなどに席巻され、飲み込まれてしまったのに、神道はある程度の独自性を保ちながら、しかも近代になってからも民族宗教として体系化され、存在し続けているのは何故か――という視点で日本宗教史や日本文化を理解していこうとしていました。神道研究の新しい方向、可能性を見せていると感じました。
 もう一点、ベニスでの研究交流中に考えていたのは、神道国際学会の神道研究や研究交流の中に、将来に向けての神道の在り方とか、言ってみれば神道神学のようなものの研究の可能性を論ずるとか、そういうことがあってもいいのではないか、ということです。
 例えば今回、私が発表したのは「生命論」でしたが、神道者としての主体的な、神学的な捉え方――そういう内容があってもいいのではないか。鎮守の森の意義をメッセージにするとか、神道・神仏の世界に見る日本人の生命観を今の時代に発信するとか……。学際的・国際的な研究や、客観的に捉える神道史ないし神道学だけではなく、現代社会的な取り組みとしての学問の成果でもって研究交流に参加することがあってもいい、と思うのです。

神道文献のデータ化、他研究機関との交流、神道セミの地方開催……

―本学会の今後の運営・発展について
 現代社会の課題に対する神道、いわば神道神学という線もあるだろうという意味で、改めて本学会を眺めると、研究者だけでなく一般会員として入会してくださっている人がたくさんいるわけです。今の時代と共にある神道とか、生活の中にある神道とか、メッセージとして会員の皆さんに紹介することも可能になってくる気がします。単に知識や教養だけで満足するわけではなく、生きているなかで神道に意義を見いだしている会員もいるわけですから、その要望に応えるということが必要だということですね。
 本学会の今後の運営、発展を目指しての事業内容ということになりますと、理事の方々と協議しなければなりませんが、当面の基本線としては国内外を含めた研究者の交流がやはり核になるでしょう。
 学術的な事業課題の一つだと思うのは、神道文献の英訳とか、貴重な神道文献のデータ化でしょうか。具体的に言えば、まずは『神道大系』のデータ化。データ・ベースとしてアクセスできるようにすることが可能かどうか――。事業を裏付ける資金と人材など長期計画が必要になりますが、少なくとも可能性を探るプロジェクトを立ち上げておく価値はあると思います。
 もう一つ考えていきたいのは、本学会以外の他の研究機関との交流です。あるテーマ研究のプロジェクトが共同で、タイアップで推進されれば大きな研究成果が生まれるはずです。
 さらにもう一つ、国内で年一回開催している神道セミナーについてですが、神社界や各地の大社、あるいは他の学術団体と共催する形で、今以上に地方開催を考えていくと、会員の幅や数、人々の関心を拡大していくことに繋がるはずです。神道国際学会の発展を考えていくためにも、是非、検討したいところです。 (秩父神社にて)


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