神道国際学会会報:神道フォーラム掲載
神道展示館訪問 : 松尾大社・宝物館

最古級の御神像三体が在す ―― 生彩と情感豊かに

洛西の古社、醸造の祖神「松尾さん」

    京都きっての古社「松尾さん」は洛西の総氏神として地元の尊崇を受けるほか、とくに醸造の祖神として名高く、全国から酒造家はじめ味噌・醤油・酢などの製造・販売業者が参拝に訪れる。神輿庫の外壁には各地の酒蔵から奉献された酒樽がびっしりと積まれ、お酒の神様≠ニして敬愛される由緒を如実に物語っている。
    天平の昔、社殿背後の御手洗谷から泉が湧き出したとき、松尾の神様の託宣があった。「この霊泉飲めば癒病長寿、また泉水で酒を醸し我を祀れば福寿増長・家門繁栄――」。以来、酒造に携わる者はみな「松尾さん」に祈念を込め、神泉の水を元水として持ち帰ること、あとを絶たぬという。
    この御手洗谷を擁する松尾山の支配神は大山咋神。その御姿かとも言われる御神像など、神像三体を拝観できるのが松尾大社「宝物館」である。
昭和を代表する作庭家、重森三玲による名園「松風苑〈曲水の庭〉」を巡って宝物館に入ると、正面に御神像三体が並んで在す。向かって左から男神像(老年)、女神像、壮年の男神像。わが国の神像彫刻史上で現存最古に属しながら保存状態に優れ、その姿は神像にふさわしく気品が漂うとされる。平安初期の作。
    男神は巾子(こし)の短い冠に古式の萎(なえ)装束姿、女神は結髪で左前の唐服姿。三像とも一木造りの等身大座像。肉身の抑揚、衣紋さばきが懇切で、生彩をみせている。老年男神像を御祭神の大山咋神、女神像を同・中津島姫命(市杵島姫命)、壮年男神像を摂社・月読神社の月読尊に擬す。
    老年像のいかめしさ、青年像の生気ある表情とともに、同館説明員は、ふっくらと豊満な女神像が見せる情感の多彩さを強調する。「女神に対面する方向によって御姿が変化する。三つの感情を宿している」という。微妙な表情の変化は実際に拝顔するしかない。
    神像のほか、「信長朱印状」「家康朱印状」「頼朝下知状」「松尾神社起請文」等、同大社に関する古文書類の写しなどを展示する。


▼京都市西京区嵐山宮町三(松尾大社境内)
▼電話075(871)5016
▼8時半から16時(日・祝日は16時半まで)
▼松風苑三庭(曲水、磐座、蓬莱)拝観含め大人500円、学生400円、子供300円


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