神道国際学会会報:神道フォーラム掲載
日々雑感 :梅田善美理事長

  本紙の前号で報告した「ロシアと中国の日本文化研究者交流会」の仲立ちをしたおかげで、ロシアで三つの発見をした。一つはモスクワの変貌ぶり。私は1968年以来数回、シベリア鉄道経由でヨーロッパに旅したり、ソヴィエト連邦時代のロシアや周辺諸国を訪問した。ソヴィエト連邦の瓦解につながった「エリツィンのプーチョ(反乱)」のまさにその当日ハバロフスクにいて、ほうほうの体で新潟に帰り着くや、テレビ局からロシアの混乱ぶりについてインタビューされたこともあり、豊かになったモスクワの変貌に改めて感慨を覚えた。 
 二つ目は、交流会の会場になったモスクワ国立大学付属アジア・アフリカ諸国大学では、日本語学科と中国語学科に応募する学生が数百名にも上っているということで、同大学のマイヤー学長もその現象を喜んでおられたが、問題は教員不足とのこと。交流会の続きは、ロシア国立図書館付属の東洋文庫に会場を移したが、そこでも日本関係の蔵書が多く、副所長セルゲイ・ククシキン氏によれば、この文庫には毎日、日本語の図書を読むために来館する人が列をなすという。展示されている雑誌も数百点もある。ロシア国立図書館所蔵和漢書目録が2年ごとに刊行されているが、残念ながら神道関係のものは少ないようだ。
   さて、三番目のそしてもっとも大きな発見は、サンクトペテルブルグのロシア国立宗教史博物館であった。世界でも有名なエルミタージュ美術館を流暢な日本語で案内してくださったスピリドノフ・グリエーブ博士は、美術史が専門で、日本に留学して神道や仏教を研究対象にした方だが、現職は宗教史博物館の東洋宗教史部の主任研究員である。ペテルブルグにはわずか一日の滞在で、宗教史博物館の見学は駆け足だったが、目下大幅に建物を改装中で、副館長のディミトリエヴァ女史の説明では、世界のあらゆる宗教の資料を網羅するための増築とのこと。なんと、この博物館は「宗教は阿片なり」(ヘーゲル法哲学批判序説)というマルクスの言葉を証明するための施設として1932年に設立されたものだという。しかし今では、それが逆転した形である。グリエーブさんが入職してから、昨年には「日本のこころ」をテーマにした仏画や仏像などの展覧会をひらいており、ここ10数年にわたって毎年「世界の宗教問題を考える」を主題にしてさまざまなテーマを設定した国際シンポジウムが開催されているので、今後は神道を取り上げ、日本からの出講者を歓迎するという。そのためにも、同館には「神道コーナー」を設けたいというので、本会も協力することを約束し、帰国してさっそく書籍や絵馬などを送った。将来はこの博物館と合同で神道の国際シンポジウムをしたいと考えている。

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