神道国際学会会報:神道フォーラム掲載
新刊紹介 読書の秋 特別編


『新版 国家神道とはなんだったのか』

神道人の立場に立つが実証史実を重んじる

 昭和61年に発行されたものを装丁・組版ともに一新。今回、後半部に新たに加えられた國學院大の若手研究者による解題T、Uにもあるとおり、「国家神道」に関する「神道人」からのまとまった通史の叙述であると同時に、明治維新から神道指令までの歴史的展開を検証した近代神道史の論究でもある。
 著者は「神道人としての立場に立つが、あくまで実証史実を重んじている」と記し、都合のよい資料と虚像とイメージで語られることの少なくない研究に痛烈な論駁を加える。一方、一次的な資料を重んじた実証主義を貫こうとした姿勢と、そこから提示した実像史観から、「国家神道」および「国家神道」制に対する厳しい評価もはっきり展開する。旧版の刊行当時、様々な立場を超えて各界から反応が沸き起こったというが、その所以であろう。
 「国家神道」の形成と概念規定、その複雑な実像に関しては、本書における近代神道史・政治史の論究が総合的に明らめるところなので頁を開いてもらうしかないが、著者が入り口で憂えるところは「『国家神道』の語を、時により人によって、勝手しだいに解釈している。(略)各人各様に、ほしいままに乱用したのでは、明白にしてロジカルな論理も、史観史論も成立するはずがなく、対立者との間の理論的コミュニケイションもできない」という状況である。これは我々一般のお粗末さでもあろう。「国家神道」を口にするに、まずは一読してみるべき書である。
各章ごとに、本文そのものに対する、あるいは関連の詳細な註記がある。また巻末には充実した主要参考文献目録を置く。
 なお本書は、神社新報創刊60周年を記念して出版されたもの。
▽葦津珍彦・著/阪本是丸・註記 
▽B6判、271頁、1680円 
▽神社新報社=03(3379)8212

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『PDF版 神社新報』

創刊から平成十六年までの紙面をDVDに収録

 神社神道界随一の専門紙、「神社新報」の創刊から平成16年までの紙面を収めたPDF版。DVDーROMドライブ搭載のパソコンで閲覧可能。年号、日付を選択して希望の号の紙面を見ることができる。
 神社界にとっても激動の終戦直後から平成の世まで、斯界の全般動向を知るに不可欠の資料だ。
 全4巻セット。収録内容は第1巻が昭和21年(創刊)〜同35年、第2巻が同36年〜同50年、第3巻が同51年〜同64年、第4巻が平成元年〜同16年。
 「神社新報」は現在、月4回・月曜発行で、本PDF版に収録された平成16年末時点で通算2816号となっている。
 神社新報創刊60周年記念事業発起人会が企画、神社新報社が製作・著作にあたった。製作協力は神社本庁。
▽非売品。
▽問い合わせは神社新報社=東京都渋谷区代々木1-1-2
▽電話=03(3379)8211

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『上賀茂のもり・やしろ・まつり』

歴史・文化・神事――
古文書の調査・整理がもたらした最新の研究成果

 京都・賀茂別雷神社(上賀茂神社)に残る約14000点におよぶ古文書を整理した『賀茂別雷神社文書目録』が刊行されたのが平成15年。この『目録』刊行までには、平成9年から6カ年にわたる専門の研究者による文書の調査・分類・整理という労苦を伴う作業を経ている。当調査によって、同神社の神事や歴史、文化に関する新たな知見が加わることになった。
 調査に平行して同神社では、経過報告も兼ねて、調査に当たった研究者による公開の「歴史文化講座」を29回にわたって開催している。本書は、その「講座」の内容をもとに各研究者がそれぞれの専門研究を加えて書き下ろした論集である。
 ということは、本書には上賀茂神社に関する歴史的研究の最新の成果が、極めて濃厚な内容で盛り込まれていることになる。編者が「あとがき」で、「賀茂別雷神社文書を使った総合的研究の先陣」、あるいは「賀茂別雷神社文書研究の今後の指標」と書いて自負するのも、むべなるかな、なのである。
 いきおい難解な専門書を想像しそうだが、第一章「もりのいとなみ(歴史編)」、第二章「まつりといのり(文化編)」、第三章「やしろのまかない(諸国荘園編)」で構成されるのを見ても、歴史や文化、神祇、信仰に関心を持つ人なら研究者でも一般者でも興味深い内容に違いない。途中に同神社の神事にまつわる「コラム」も挿んでいる。
 なお、今回の調査・集成の事業により、当文書の歴史的な価値が明るみになり、今年三月、国の重要文化財に指定された。
▽監修=大山喬平、編=石川登志雄・宇野日出生・地主智彦 
▽401頁
▽2970円 
▽思文閣出版=075(751)1781

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『ポスト・ソヴィエト期(1991─2004)のロシアにおける日本研究』

人文・社会科学の諸分野における 日本研究の新動向

 タイトルが示すとおり、ソ連崩壊後のロシア学術界における日本研究の新展開・新動向を分析・評価する論文集。執筆陣はロシア科学アカデミー付属東洋学研究所をはじめロシア国内の大学など、第一線で活躍中の日本研究者たちである。
 各論文とも日本研究の動向が主題ではあるが、執筆者の専攻によりテーマは言語、歴史、経済・経営、社会、政治、文学、文化、思想、ジャーナリズムなど多彩な分野にわたっている。
 日本研究の全般的な状況認識については、ロシア科学アカデミー付属東洋学研究所日本研究センター長のエリゲナ・ヴァシリエヴナ・モロジャコヴァ氏(本会モスクワ代表部の所長も務めている)が「序文」として述べている。
    その「序文」によれば、社会発展に対する分析手法は、ポスト・ソヴィエト期に到って、それまでの「生産方法」や「階級」などを主要基準とする検討から、「社会経済」「社会心理」「イデオロギー」「文化的要因」をはじめ人々の活動の全側面を視野に入れる方向に展開したもののようである。習慣、宗教、心理、精神性など人間の精神活動への学問的な考慮も広がり、当然、日本研究に関しても範囲拡大につながった。なぜこのテーマで日本研究をするのか――という目的や視座も多岐に広がりをみせている。
 こうした全般的な傾向の中で、本書の各論文は人文・社会科学の諸分野における動向を紹介するわけだが、現代の研究者がどのような関心と観点から日本にアプローチしようとしているのか、はなはだ興味深いものがある。
▽ロシア日本研究者協会・ロシア科学アカデミー付属東洋学研究所日本研究センター▽編集=法政大学国際日本学研究所 
▽245頁 
▽法政大学国際日本学研究センター=03(3264)9682

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『HANDY BILINGUAL REFERENCE FOR KAMI AND JINJA』
(日英対照神社関係用語集)

神道勉強会からはじまったグループの元気な試み

 外国人に日本の神々や神社のこと、つまり日本人の信仰や宗教文化の基層をなす部分を説明するのはなかなか難しい。言語の壁が立ちはだかる。この『用語集』はその壁を突破する一つの試みといっていい。
 用語を説明訳した「日→英」「英→日」の二編と、神道や神社を理解するための様々な事項を解説した「付録」の計三編で構成。ハンディ版なので、外国人を案内中にその場でサッと開いて確認することも、実際に見せて理解納得してもらうこともできる。豊富な写真やイラスト、図表が説明の補足として役立つだろう。文化や精神性のかなり細かい部分にまで及んでおり、「日本の神々の特性を世界に紹介」するために過不足のないレベルにまで達している。
 神道を勉強する有志が「こんな本があればいいね」と話し合って神道文化研究会を結成、神道国際学会の神道研究グローバルネットワーク基金による助成のもと、三年間をかけて完成させた。前書きにもあるとおり、「アマチュアの学習グループ」ならではの心意気にあふれた冊子だ。

▽神道文化研究会 著
▽協賛金として1000円
▽国際文化工房 連絡はFAXのみ=03・3672・5143


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