神道国際学会会報:神道フォーラム掲載
マイ・ブック・レビュー : 『陽(ひ)の国神道』 奈良泰秀

     この本は、3年ほど前からある新聞紙上で月に2回、連載をしているコラムをまとめたものである。気が付くとかなりの分量を書いていた。内容に制約を受けることもなく自由に書かせていただいたことで、その時おりおりに思いついたことを記すことができた。締切り間際にあわてて書いたもの、書いているうちに興に乗って一つのテーマを追い続けたもの、神道の枠からはみ出たものもある。神道入門をうたってはいるが、神道を識るための一貫性があるものではない。とくに難しいと思える専門的なものを、今回は除外した。
 7月に、昭和天皇がA級戦犯の靖国神社への合祀に不快感を示された、という「富田メモ」なるものが世に出た。なぜ、いまこのようなものが出てきたのかと、意図的なものを覚えるのは私だけではないだろう。靖国神社は、政治や外交の駆け引きの舞台に上げられて久しい。最近は、とみに分祀問題で喧しい。
 だが、政治家や有識者の声は聞こえるが、神明に奉仕する神職の声は聞こえてこない。神職は祭儀に関わる専門分野の分祀の問題点を真剣に議論し、主張することは主張して、もっと言挙げ≠すべきだろう。
 他国に干渉されての分祀などすることはないが、本のなかで、私は心から参拝したいと願う人たちの靖国神社で良いと思う、と述べた。行先に異を唱える人にはバスから降りてもらってもいい、とも言った。
 キリスト教徒は、靖国神社に祀られている身内の御霊を返せという。わが身に置き換え、確かに仏教徒や神道人がイスラーム教やユダヤ教で戦死した家族が祀られるとしたら承服しないだろう。そのような御霊は返してあげればいい。返せないはずはない。ルバング島から帰還した小野田寛郎少尉やグアム島で救出された横井庄一伍長は、生還するまで靖国神社に祀られ、帰国して霊璽簿から外されたはずだ。かたくなな分祀できない論≠ヘ、もう一度、土台から組み立て直すべきだろう。この本がその議論の導火線にでもなればと思っている。

▽269頁 
▽1575円 
▽三五館=03(3226)0035



奈良泰秀(ならたいしゅう) 
國學院大學文学部卒。神職。「にっぽん文明研究所」代表。世界を放浪する旅でイスラーム世界と出会い日本人の精神性・霊性を覚醒、神職となる。精神(こころ)と作法(かたち)を学ぶ°ウ派系神職を独自に養成、神道系教団に送り出す。母校空手道部・OB会の事務局長を永年に亘り務める。タイガースファンでもある。著作多数。
 



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