神道国際学会会報:神道フォーラム掲載

宗際・学際・人際

菅原信海師に聞く

天台宗妙法院門跡門主・早稲田大学名誉教授

古都・京都──神様と仏様が離れられないところ
復活見せる共修の伝統行事
仏教研究も神道研究も歴史の中に位置付ける必要

  いわゆる「神仏習合」という現象が明治に入るまでずっとあったわけで、お寺と神社が一緒の所、切っても切り離せない所が全国にたくさんあるわけです。特にここ京都という所は仏教が栄え、そこに点々として神社があり、昔からお坊さんと神主さんが一緒にゆかりの宗教行事をすることも多かった。
  ここ妙法院は後白河法皇が中興の祖で、法皇と叡山との関係で比叡の神様を祀った「新日吉」という神社が側にある。また熊野信仰の篤かった法皇が勧請した「今熊野」というのもある。ともに妙法院と古くからつながりがあって、とくに「新日吉」の祭礼には今でもこちらからも参列いたします。
  「神仏分離」以降、途切れたものもたくさんあるわけですが、今また、伝統の行事を復活しようという動きも見られますね。
  このまえ金閣寺で、昔、北野天満宮の神主さんが弓を放つ弓祭――つまり魔除けですね、神の加護を願う祭があったわけですが、その行事を復活してやっていました。また、石清水八幡宮と清水寺、東寺とが結びついて、様々な神仏習合の行事が行なわれているのです。
  八幡さんはもともと仏教と縁が深くて、例えば「放生会」ですね。南九州の隼人族を大和朝廷が鎮圧したときに、九州・宇佐の八幡様がバックアップして、結局、隼人族に多くの犠牲者が出たので贖罪の意味で行なうようになった。「放生会」というのは仏教行事ですけれど、神社でも行なうのは「菩薩宮」などと呼ばれたことのある神仏習合の強い八幡さんだからこそでしょう。石清水八幡宮さんの「放生会」には、我々、天台宗のお坊さんも参加するのですよ。
  その天台宗で言えば、昨年は「開宗千二百年」関連で、宗として様々な事業をやったわけですが、祇園の八坂神社さんでの法華八講。あそこは元々、感神院という天台のお寺だったのですね。その関係で、天台宗の「論義」、つまり法華経の講義をして問答をするという行事をやりました。明治以後では初めてじゃないですか、神様の神社で本格的な仏教論義をするというのは。ここのところ京都では何となくそういう行事の復活というのが見られるのです。
  そもそも京都というのは御霊信仰が盛んなところです。京都の祭りにもそれが窺がえます。歴史的に政治の中心だった関係でしょうか。政治的に不遇で亡くなった人たちの怨霊を慰め、災いを鎮める。菅原道真公の北野天満宮とか、桓武天皇の弟、早良親王の崇道神社とか……。八坂の祇園祭も、牛頭天王と武塔天神とスサノオノミコトが絡んで祇園御霊会として始まったと言われてますしね。
  どうも京都というところは神様と仏様が離れ離れになれない、くっついているところだなと、よく感じます。そういう意味で京都は、「神仏習合」という私の学者としての専攻分野からいうと、研究材料に事欠かないところで、非常にありがたい(笑い)。

   ◇   ◇

  一口に「神仏習合」といっても、ご承知の「本地垂迹」と「仏本神迹」に代表されるように、時代時代で多様な側面がありますし、それぞれの論点に対する現代の学者の解釈も様々です。
  しかしそもそも、仏教が伝来した頃、「蕃神」とか「大唐神」と史料に見えるように、仏は古来の国神とは異質の「神」だと捉えていたわけです。
  比叡山も、天智天皇が大津に遷都したとき、天皇の守護神だった大三輪明神を勧請しているように神の山でもあった。また『古事記』によれば、比叡山の地主神は大山咋神だという。大比叡明神つまり大宮は大三輪明神、小比叡明神つまり二宮は大山咋神。同時に奈良初期には社も存在し、その後、天平年間には禅処の荒れた様子も見られます。最澄はこうしたなかで比叡山に入り、日本天台の礎を築きました。最澄自身も大小比叡明神、二神への神祇信仰を持っていた。時代が下ると比叡明神つまり聖真子権現が加わり「山王三聖」となりますが……。
  このように仏教伝来の頃からすでに、神と仏は同居し、神仏習合の姿をみせている。お稲荷さんだって神としても、仏としても祀られているわけでしょ。
  その後の「本地仏」や「権現思想」の問題、「神宮寺」の分類の問題、「神道」各流と密教・道教・陰陽道との絡みの問題など、仏教史にしろ神道史にしろ、日本の歴史という視野から位置付けて研究していかないと、本質や実態が見えてこないと思います。様々な分野に目を通さなきゃいけない反面、特異な研究領域なのだから、その実態をつかむには困難が伴いますね。
(京都・妙法院門跡本坊で)

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