神道国際学会会報:神道フォーラム掲載
日々雑感 :梅田善美理事長

    日本の元旦風景と言えば、津々浦々の神社仏閣での初詣だ。その賑わいは、無宗教といわれる日本人がかもしだす不可思議な現象として全国で展開されている。なかには新幹線に乗って遠くの神社まで参拝に行く人たちもいる。それらの多くは熟年者のグループである。
 元気の良い熟年者はたいてい旅行好きだ。そうした熟年層をターゲットにした旅行クラブや、乗車券や宿泊料金を割り引きにするサービスも多く、私もときどき恩恵にあずかっているし、出張費も節約できるのがありがたい。
 旅行会社が熟年向けのグループ旅行を成り立たせるには、「三こう」が基本になっているという。最初の「こう」は「健康(けんこう)」。なにしろ健康でなければ旅行はできない。歩くことは健康の秘訣である。次の「こう」は「観光(かんこう)」。いつの世も観光は旅行の大きな目的のひとつである。
そして最後の「こう」は「信仰(しんこう)」。四国八十八箇所霊場めぐりを旅行というのは語弊があるが、伊勢まいりや富士講など、信仰目的で旅に出るのは古来変わらない。昨年「紀伊山地の霊場と参詣道」が世界遺産に加えられてから、熊野古道をたどる人々が増加の一途という。その人々の目的がすべて信仰であるとは言いがたいが、普通の道よりも参詣道と言ったほうが、人々のハートをくすぐるようだ。
 「健康・観光・信仰」は、世界一の長寿国であり、「経済大国」とよばれる日本に住む日本人の心の隅に、信仰の念が宿っていることを思わせるスローガンである。おしむらくは、旅行の期間が短いこと。国内なら二泊か三泊がせいぜい、海外旅行でも一週間くらいで数カ国を駆け巡る。もう少しゆとりを持った「三こう」旅行がしたいものだと、反省も交えての感慨である。


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