神道国際学会会報:神道フォーラム掲載
From Abroad-外国人研究者紹介 
ワシーリー・モロジャコフ博士
拓殖大学日本文化研究所附属 / 近現代研究センター主任研究員

歴史の土台に神道を感じて
専門は日本近現代史

ロシア語の神道紹介本の刊行に意欲

 「日本研究は神道抜きには考えられない」と言い切るモロジャコフ博士。「それはいわゆる宗教というよりも、日本人の精神に深く根ざし、日本文化の柱となっているものだ」。そう確信を抱くのは、別に使い古された一般論を生かじりしてのことではない。
 博士の専門は日本近現代史と国際関係論。もともと「どこの国を対象に研究するにしても、その国を深く知るには社会全般を見なければ分からない」というのが持論だ。
 「それは国民の教育にしろ、レジャーの嗜好にしろ、そして宗教にしろそうなのです」
 日露関係の研究のために来日して十年が経つ。必然的に、鎖国を解くに至った明治維新にも考究の目を向けた。「維新は大きな変革だったが、政治や経済の面だけでなく、その性格を見ると保守革命の色合いが強い」と感じたという。「和魂洋才」というが、江戸時代の国学や水戸学が土台にあり、さらにその土台には神道があるとの判断だ。
 研究上の必要性から日本思想と神道を探るなかで出会ったのが神道学者・加藤玄智博士の英語本『神道の研究』だった。海外への神道紹介に功績を残した加藤博士の、外国人にも理解しやすく、しかも本質をはずさない好著は神道に対する知的関心を呼び起こしてくれた。
 「そんな経緯があるので、私の神道へのアプローチは研究というよりも勉強です」と控えめに話しながらも、神道への興味はますます尽きないという感じだ。
 モロジャコフ博士によると、ロシアの知識人は日本の思想家への関心が高いという。カントやヘーゲルと同じ感覚で本居宣長や平田篤胤を読みたいと思っているらしい。一般の人々も現在では、精神文化や宗教に対する違和感が少なく、神道にしても悪いイメージはほとんどない。「日本人自身のほうが逆に『国家神道』や『東京裁判』などのキーワードに縛られタブー視しているのではないですか」と博士は首をかしげる。
 ただ、戦前における加藤博士らの活躍以降、プロパガンダとは一線を画した神道の分かりやすい紹介や情報が絶対的に少ない。
 そうしたロシアでの実状を踏まえて博士は「私自身は神道の専門家ではないが、神道に関する刊行物や媒体がロシア語で発行されるのを期待しているし、その窓口になることで神道研究に参画したい」と自身個人の日露関係史≠フ構築に意欲をみせている。
 神道国際学会モスクワ代表部の二代目所長になったエリゲーナ・モロジャコーワ女史はご母堂。母子二代の日本研究者である。
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