第14回神道セミナー「神道と武士道」

MINOLTA DIGITAL CAMERA第14回「神道セミナー」が2月28日午後、茨城県鹿嶋市で開催された。年一回、全国各地を会場に開く公開講座。今年のテーマは「神道と武士道」で、「剣聖」とうたわれる塚原卜伝ゆかりの鹿島神宮を主会場とした開催となった。あいにくの雨模様だったが、約150人が参加し、剣術古武道の一大流派「鹿島新當流」による奉納演武や講話、パネルセッションを熱心に参観・聴講した。うち「剣聖塚原卜伝顕彰と奉納演武」では鹿島新當流の第六十五代宗家、吉川常隆氏が関東武術や同流の解説を行ない、門下が実演を披露した。続く基調講話では、菅野覚明理事(東京大学大学院教授)が「武士道、自然、神道」と題して話した。パネルセッションでは、ジョン・ブリーン理事(国際日本文化研究センター准教授)をモデレーターに、アレキサンダー・ベネット理事(関西大学准教授)、ムケンゲシャイ・マタタ理事(オリエンス宗教研究所所長)、菅野理事がパネリストとなって武道実践と武士道研究の視点から発言を行なった。総合コメントは岩澤知子理事(麗澤大学准教授)が担当した。総合司会は梅田善美理事長。途中、国会議員などからの祝電も披露された。

鹿島新當流が奉納演武を披露

セミナー開始にあたり、本会役員や関係者、参加者らは鹿島神宮を正式参拝した。
続いて同神宮武徳殿に移り、鹿島新當流による奉納演武を参観した。演武にあたり、同流の概要を説明した宗家の吉川氏は、鹿島の剣が古代に由来し、中世には「鹿島七流」といわれるほど隆盛を極めたとした。とくに塚原卜伝は修練とともに鹿島神宮に千日の参籠祈願をして神示を受けたが、以来、流派は鹿島新當流となり卜部吉川家に継承された。同氏はその精神について、「人の和、平和の世を作る。その精神論が合わさったものと考える。強さをむやみに表に出さないところに、後世の人が剣聖と呼んだゆえんがある」と話した。そして門下による「面ノ太刀」「中極意霞ノ太刀」「高上奥位十箇ノ太刀」などの演武に解説を加えていった。

◇  ◇  ◇

この後、会場を同神宮前の新仲家ホールに移し、講話とパネルセッションが行なわれた。
開会にあたり同神宮宮司の鹿島則良氏が歓迎の挨拶をし、国づくりに当たった祭神・武甕槌大神について説くとともに、一日は東国・鹿島から始まるとし、「鹿島は武の神様であると同時に民間の信仰も篤かった。私たちに幸せをもたらすミロクの船が鹿島に着くともいわれる」などと語った。

日本人の自然観、自己了解――武士の表芸にも神・自然との関係が
基調講演で菅野理事

基調講演の菅野理事は、自然との関わりのなかから日本人が身につけてきた神道や武士の精神について論及した。人間は生活において意識的に自然に働きかけ、自然と物質交換をしているとし、和辻哲郎の『風土』を採り上げながら、モンスーン型にあってしかも日本的な特徴をみせる自然観や自己了解の仕方を解き明かした。そして、「日本の神様は自然神。神様と人間の関係があり、自然との間に関係するところに神道がある」と話し、武士の表芸も原型からみれば神に関係しており、自然に承認され神仏に交流することが目指されたと解説した。

パネルセッション
「武道精神は活かしてこそ生きる」 ベネット理事
「『武士道』の真意を理解すべき」 マタタ理事

パネルセッションではまず、ベネット理事が剣道の型を実際に示しながら、武士道や武道にある精神、殺傷から人を生かす技へという武道の変遷、そこに底流する緊張感などを説き、「武士道精神、武道文化に自己満足しているきらいがある。強さ、優しさが武道の中には生きているはずで、その精神を実際のものとして実行しなければいけない」と語った。
続いてマタタ理事は、新渡戸稲造が『武士道』を書いた背景や真意を探り、「精神的な混乱状況のなかで新渡戸は、和魂洋才など新たな文明を生まれさすことを考えていたに違いない」と話した。そして、一般に言われる「日本の心」「日本の文化」と新渡戸の思考のあいだにあるズレを指摘し、「武士道」の正しい理解が必要だと問題提起した。
菅野理事は基調講演を補足するかたちで、武道のいう武勇や強さの本意を示唆し、人間が生きるなかで必要とされるものとした。

「日本人の精神に響き渡る価値を追求したい」
総合コメントで岩澤理事

セッション後には吉川氏も加わった講師陣が会場からの質疑に答えた。
プログラムの最後、総合コメントを行なった岩澤理事は、講演とセッションでは武道の原型にある日本人の観念に始まり、武道の歴史や変遷、そして思考の抽象的な進化までが論じられたとし、そのうえで、女性の立場から見て、日本的なるものや男性的なるものを越えていく課題的な要素にも触れ、「精神の底に響き渡るものの価値を追求していきたい。日本人としての存在を徹底し、究めることにより、世界に共通するものを見出すことが大事ではないか」とまとめた。

スカパー放映予定

このセミナーも模様がスカパーにて放映決定。
216チャンネル「精神文化の時間」
4月25日(日)21:30~22:30
4月29日(木)21:30~22:30

放映された映像は、DVDとして講演録とともに神道国際学会の会員には後日、無料配布される。

出講者の簡単なご紹介

yoshikawa 吉川常隆師
鹿島新當流宗家に生まれた。幼時から斯道の研鑽に励み、第六十五代宗家を継いで、當流指導に精進されている。
kanno 菅野覚明氏
専攻は倫理学・日本倫理思想史。『神道の逆襲』(講談社現代新書・サントリー学芸賞受賞)、『武士道の逆襲』(講談社現代新書)の名著がある。神道国際学会理事。
breen ジョン・ブリーン氏
英国ロンドン大学SOASで日本学科長を務め、平成20年から現職。神道や日本近現代史の研究で多くの論文や著書を発表している。古武道の研鑽にも励む。神道国際学会理事。
iida 飯田清春師
学生時代から合気道の研鑽に励み、(財)合気会の理事を務める。全国一宮会会長。神道国際学会理事。
bennett アレキサンダー・ベネット氏
ニュージーランド出身で、国際剣道大会の同国チームの主将を務めた。京都大学で武士道をテーマに博士号を取得。神道国際学会理事。
matata2 ムケンゲシャイ・マタタ師
コンゴ民主共和国出身。カトリックの神父として日本に赴任され、上智大学に学び、現職に任命される。多神教の日本の宗教環境を研究。神道国際学会理事。
iwasawa 岩澤知子氏
米国ボストン大学で博士号取得。比較文明論・比較神話論専攻。神道国際学会理事。

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