第10回神道セミナー「森に棲む神々」

10thseminar本会主催の第10回「神道セミナー」が3月19日、京都市左京区の京都会館で開かれた。年一回恒例の公開講座で、今年のテーマは「森に棲む神々――講話と映像と歌曲でつづる自然との共生の道」。後援はNPO法人社叢学会と国際京都学協会。約250人の参加者が最後まで熱心に聴講した。

総合モデレーターは本会の三宅善信常任理事。基調講話を新木直人・賀茂御祖神社宮司が行なった。また関連講話としてアレックス・カー本会理事が「犬と鬼―知られざる日本の肖像」、鎌田東二・京都造形芸術大学教授が「異教に見る森の神々―神道とケルト」と題して話した。

10th_sonoda    映像上映では「日本は森の国」(制作・著作=社叢学会)全五巻のうち二巻が披露された。歌曲ミニリサイタル「日本の四季を歌う」ではソプラノ歌手の薗田真木子さん、ピアノ奏者の谷有希子さんが「中国地方の子守歌」「さとうきび畑」などのほか日本の童謡・唱歌のメドレーを披露。また参加者も加わって「赤とんぼ」を合唱した。

神道セミナーの開会にあたり、本会の薗田稔会長は「国家神道そのものが神道という誤解と偏見がいまだ根強い。それを拭うのも本会の役目だが、人心荒廃のなかで次世代に日本文化を伝える面もある。神道を中心とした伝統文化の再評価、また関心の高まっている地球環境の保全にどう関わるか――。国内外の研究者や運動家と融合しながら本会の発展を目指したい」と挨拶した。

「糺の森」の祭祀――自然から力を頂く古風の祭り   新木直人宮司

    基調講話では賀茂御祖神社(下鴨神社)の新木宮司が、「糺の森」として知られる同神社と、その森の来歴について、そこで行なわれた祭りに込めた人々の思いなどとともに話した。
同宮司は、古文献から洛中洛外の森・杜・林をピックアップし、うち(1)比較的規模の大きな「森」に対し小規模なのが「杜」である(2)景観美と見られた寺院の森に対し、自然そのものとして信仰の対象となったのが神社の森である(3)森や山を拝するから林も「はやし」とされた、などと推測した。
「糺の森」の範囲の変遷や呼称の由来を紹介するなかで同宮司は、「木だけ密集するのが森かといえば必ずしもそうではない。森の中に人も住み、田も畑もある」とし、古代からのたたずまいを近世まで保ち続けた「糺の森」の貴重さを語った。
同宮司はさらに、皇室との関係が深くなって以降、関連の社殿造営や旧跡、奉幣の官祭があるものの、祭祀遺跡の調査結果などから推測すると、氏神として、あるいは人々の祈願としての「糺の森」の祭りが存在すると強調した。「社殿ではなく、昔ながらのお祭りを森の中で行なう。荒ぶる地霊を祭り、同時に森そのものをも祭る。人間では測り知れない木々の力――その力をいただくことが、例えばミアレ神事の根源にはある」などと話した。

国栄えて山河なし〟――コンクリート漬けを憂慮  アレックス・カー氏

   続く関連講話でカー理事は、「日本は森の国。森が残るのは日本の特徴だが、果たして今、伝統思想どおり木や自然や森を大事にしているだろうか」と問題を提起。スライドにより、自然を崩して造成された護岸や林道側壁、各種モニュメントや都会の看板・ネオンなどを示し、「〝国栄えて山河なし〟――日本という国そのものが彫刻化され、コンクリート漬けされてしまった」と憂慮した。「故事に、鬼を描くのは易しいが犬や馬は難しい、というのがある。目立って吃驚させることが大事で、身の回りの当たり前のことに意を注ぐことができなくなっている」と、日本人の嗜好の変化や行政の問題も指摘し、「日本には神宿る神秘がぎりぎり残っている。神道の信仰に救われて、神秘や伝統が助けられればいい」と話した。

神道とケルト――詩的感性や「もののあわれ」に共通の精神 鎌田東二教授

    もう一人、関連講話を担当した鎌田教授は、神道とケルトにみえる精神性の共通土台を探るため、十八世紀から二十世紀に登場した人物群に焦点を当てた。十八世紀の本居宣長、上田秋成、ゲーテ、十九世紀の平田篤胤、ウイリアム・ブレイク、二十世紀の折口信夫、小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)、イェイツらを取り上げた。宣長や秋成、ゲーテにみる詩的な感性、歌詠みの心、モノ感覚、「もののあわれ」的な心性を分析し、「モノは単なる物質ではなく、霊性とか人格性につながる。この感覚を再認識して、一つの土台にしている」と解説した。さらに日本の場合、「モノにまつわる神性感覚があるからこそ、儀式も単なる形式事でなく、魂を入れる感覚を重視した」と話し、それがさまざまな供養文化や日本人の物作り、産業技術にもつながっていると強調した。ブレイクや篤胤も、想像力を駆使ししつつ霊的感覚を学問的に探求、表現したとした。最後に、「もののあわれ、もののけ、さらには物づくり、物語りをも含むようなモノ感覚から日本的霊性を語っていきたい。それは神道の森の感覚と根本から通じるのではないか」と語り、日本思想の探求に向けた座標を提示した。

    質疑応答では、「森の国」日本と日本人の今後の課題に関わるような質問が出された。講師陣は「古代人は森の中に生活していた。そこは同時に神様の住まいでもある。日本の神様は生活の中におられる」(新木氏)、「絶望ではなく、これからも木を愛することが大事。ただそれだけではないか」(カー氏)。「霊性を含むモノ感覚を人々の心にどう波動として与え、心を変えていくのか。人々の感覚をどう組み立て直すのかが課題」(鎌田氏)などと示唆を与えた。
閉会を前に、モデレーターの三宅常任理事はセミナーを総括するとともに、「学術的に極める。同時に、世界では神道という言葉がネガティブに見られる部分があるので、それを乗り越えて日本の精神を広く発信していくことも大切だ」と語った。また閉会挨拶では本会の梅田善美理事長が各位に謝意を表した。