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中国に響く能楽の響き
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平成11年8月3日午後7時、中国浙江省の省都であり、西湖で名高い景勝の地、杭州市にある浙江音楽庁に、日本の能楽の音色が響いた。
前年9月から、浙江大学日本文化研究所には、神道国際学会の基金による講座「神道と日本文化」が開設されており、現在は神道国際学会理事でもある王守華教授の指導のもと、10名ほどの大学院生が学んでいる。
この日本文化研究所は、日本文化を前面に押し出して研究している中国で唯一の研究所であり、今年は設立十周年にあたる。それを記念して神道国際学会が、世界芸術文化振興協会、社団法人宝生会の全面的な協力を得て、本格的な能の公演を実施したもの。
中国では、正式な能舞台をしつらえて、能のシテ方・ワキ方・狂言方・囃子方を揃えたフルメンバーからなる本格式な能公演は初めて。日本人でも理解が難しいと言われる幽玄の世界が中国の民衆にどう受け入れられるか、大学側もまったく予測ができなかった。中国在住の日本人からも、無理ではないかと悲観的な声が出たほどであった。そのため、主催者側は事前に能についての知識を広めることに全力をあげた。
まず、浙江省はもとより、北京の中央政府、日本総領事館、全国の主要なマスコミに働きかけ、万全のバックアップ態勢。日本の国際交流基金からの後援も受けた。
公演日が近づくと地方紙には連日のように、能や装束についての解説記事が掲載された。また、演目が仕舞「鶴亀」、能「羽衣」、狂言「棒しばり」、能「石橋」と決定されるや、大学院生を総動員して筋書・台詞を中国語に翻訳、それを写真とともに総カラーのパンフレットに印刷して、当日の観客に配布した。
8月3日、宝生流第19世家元の宝生英照師を先頭に、能楽師23名と宝生流嘱託教授である神道国際学会副会長・世界芸術文化振興協会会長の深見東州師をはじめとするスタッフ全員が、浙江音楽庁に集合。はるばる日本から運んだ能舞台も、松の緑美しく見事に完成、見る人々に感嘆の声を上げさせた。

会場の音楽庁には続々と杭州市民が押し寄せた。ロビーを走り回る子供たちもいる。日本側の心配もよそに、開演のベルが鳴り響くと人々は争うように席につき、580人の席はいっぱいになった。テレビ局は全国放映用にカメラをセットし、新聞社の取材陣の姿も多かった。人気女性アナウンサーによる解説も終わり、いよいよ能の開演である。
今回の演目の「鶴亀」「石橋」は中国に題材を求めた能であり、「羽衣」も類似の伝説があって親しみやすかったのか、また主催者側の事前の啓蒙作戦が功を奏したか、私語もなく、人々は感嘆して能舞台を見つめていた。宝生家元の演ずる羽衣の天女は雅やかに、深見東州師の「石橋」の赤獅子は激しく、中国の人々を魅了した。
狂言「棒しばり」は主人の留守中に二人の使用人が酒を盗み飲む話だが、縛られた二人が協力して酒を飲み合うシーンでは笑い声と拍手がしばし止まないほど大受けだった。終演後には観客全員に神道国際学会から記念の「幸運鈴」が贈られ、これも好評だった。
翌4日、西湖を臨む西子国賓館で、宝生師と深見師を囲んで、浙江省の文化人やマスコミ関係者との座談会が行われた。
能を初めて見た人も多く、能面の造りや台詞の押韻など、芸術家らしい質問が多く飛び出し、2時間はアッという間にたった。
その後のレセプションでは、日中関係者150名がなごやかに歓談、公演の成功を祝った。日中双方から歌や踊りが披露され、最後に大学側から感謝状、日本側から記念品が贈られ、別れを惜しみつつお開きとなった。
この公演にあたり、パンフレットやさまざまな解説文の翻訳、インタビュー、座談会、レセプションの通訳などは、日本文化研究所教授陣の指導のもと、すべて若い大学院生たちが夏休み返上で担当。日本語・中国語を駆使したみごとな仕事ぶりは多くの賞賛を受けたが、これも神道国際学会が、更なる日中の相互理解を目指して「神道と日本文化」講座を開設した成果の大きな一つといえよう。 |
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