第5回日本語による神道文化入門講座 

−神道と芸能−






    平成18年2月17日午後6時半より、インターナショナル・シントウ・ファファウンデーション(ISF)/ニューヨークセンターにて、第5回日本語による神道入門講座「神道と芸能」が開催された。講師は当センターの新渡戸涼恵オフィサーで、小野八幡神社(神戸市三宮)権禰宜として神職を務めるかたわら、夫君の松田光輝氏が主宰する演劇グループ《スタチ“オ言霊》の唄い手として、幅広く公演活動も重ねてきている。このたび、ニューヨークという新しい環境のもとで、神道文化の普及に携わることとなった。新渡戸稲造氏の遠戚にあたる。
    最初にISF羽畑豊勝マネージャーが挨拶。講演は、まず日本における芸能の起源が、古事記の『天の岩戸びらき』にあることから始まった。岩戸にお隠れになった天照大御神を引き出すために、アメノウズメノミコトが舞い、神々を笑わせたことに遡る。また、「俳優」という呼び名の発祥は、日本書記の海幸彦、山幸彦の段で、意地悪をした報いで溺れて死にそうになった海幸彦が、「もし助けてくれたら、永遠に俳優(わざおぎ)の民となるから」と山幸彦に懇願し、足を上げ足踏みして溺れる格好をした、という伝説に由来するという。神道についての講義を初めて聞く方々もいらっしゃったが、新渡戸講師のていねいなわかりやすい語り口に、メモをとりながら熱心に聞き入っていた。
    また、芝居という言葉は、「芝の中に居る」といういみで、神社の庭に生えた芝の上で、参拝にきた人々が即興で唄ったり踊ったりして、憩いのひと時をすごしたという。豪華なホールで着飾って観劇するというヨーロッパ的な敷居の高いものではなく、神々と共生している庶民の日常生活に根づいた楽しみだったことが伺えた。
     一方、世界の他宗教における芸能としては、仏教では仏典に節をつけたもので儀礼に用いられる宗教音楽としての声明、インドネシアの土着宗教では善悪の葛藤を表現するバロンダンス/男性アカペラによるケチャダンス/宮廷舞踊であるレゴンダンス、などが紹介された。また、新渡戸講師自身が深い感銘をうけたものとして、ケルトの信仰が最も色濃く残るアイルランドのアイリッシュダンスの資料映像が、解説をともなって上映された。
     その後、新渡戸講師による自己紹介のコーナーとなった。よく「神職と唄い手の両立はたいへんでしょう」と問われるそうだが、「木にたとえると、根っこが神職の部分だとすれば、それを礎として地上に出る幹や枝葉が唄い手としての私です。もとは一つで、どちらも私にはなくてはならないものだと感じています」。
     最後に、新渡戸講師による、雅楽「浦安の舞」が奉奏された。皇紀2600年を祝し、昭和天皇の御製「天地の神にそいのる朝なきの海のことくに波たたぬ世を」に曲と振りをつけて創られたもので、完成後、全国の神社で同時刻に一斉奉納されたという。ニューヨーク繁華街の夜景をバックグラウンドとして、ゆったりとした荘厳な曲に合わせ、雅やかで凛とした祈りの舞いがくりひろげられていった。参加者からは「本物を見ることが少ない昨今、《魂の輝き》、《きらめき》を感じました。これからの講演会が楽しみです」「神道のなかでの芸能の存在がとても自然な形であるのがわかりました。浦安の舞は非常にゆっくりと力強く芯の感じられるもので、何か生きる姿勢の参考にさせていただきたいです」「ニューヨークにこのような場所があることを初めて知りました。これからも神道について学んでいきたい」などの声が寄せられた。少人数ながら、話し手と聞き手の心がひとつになって、温かな雰囲気に満ちたひとときであった。

    神道文化入門講座は月に一度の開催を予定しています。ご希望の方はNYセンターまでお問い合わせ下さい。



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